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ホーキング放射
ホーキング放射(Hawking radiation)またはホーキング輻射とは、ホーキングが存在を提唱・指摘した、ブラックホールからの熱的な放射のことである。
ブラックホールは熱的な特性を持つだろう、と予言したベッケンシュタインの名前を取って、ベッケンシュタイン・ホーキング輻射(Bekenstein-Hawkingradiation)と呼ぶこともある。
・概説
一般相対性理論が予言するブラックホール天体には、量子効果を考えるならば、熱的な放射がある、と1974年にホーキングが提唱した。
ブラックホールを孤立系として考えたとき、熱力学とのアナロジーからブラックホール熱力学が成立すると考えられている。そのアナロジーからブラックホールの絶対温度(T)次式
で定義される。
ここでκはボルツマン定数、Mはブラックホールの質量である。つまり、ブラックホールは、その質量で決まる温度T[K] の熱放射を放出していることになり、完全に「黒い」わけではない。これをホーキング輻射と呼ぶ。ホーキング輻射はエネルギーを外部に放出するので、ブラックホールの質量は減少する。上式から、ブラックホールは質量が小さければ小さいほど高温であるといえる。とはいえその温度は、例えば太陽の数倍の質量を持つブラックホールの場合、上式から100万分の1[K]程度となり、通常の恒星質量クラスのブラックホールでは宇宙背景放射の温度(3K)よりもずっと低い。
「しかし、遙かに長い時間で見れば、閉じた宇宙でない限り全てのブラックホールはホーキング輻射により最終的に蒸発してしまう」と考えられている。
・簡略化された説明
簡略化された説明では、量子力学的に真空ゆらぎからトンネル効果により粒子がブラックホールの事象の地平線付近で対生成を起こす。その対生成で出来た二つの粒子の一方が地平線に向かって落ち、片方が外へ放射される。エネルギー保存の法則からブラックホールの質量エネルギーは下がる。つまり質量を失う。この放射がホーキング放射と呼ばれる。
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リーマン空間(リーマン幾何学)
リーマン空間(Riemannian manifold)またはリーマン幾何学(Riemanniangeometry)
リーマン幾何学とは、リーマン計量や擬リーマン計量と呼ばれる距離の概念を一般化した構造を持つ図形を研究する微分幾何学の分野である。このような図形はリーマン多様体、擬リーマン多様体とよばれる。ドイツの数学者ベルンハルト・リーマンに因んでこの名前がついている。
楕円・放物・双曲の各幾何学は、リーマン幾何学では、曲率がそれぞれ正、0、負の一定値をとる空間(それぞれ球面、ユークリッド空間、双曲空間)上の幾何学と考えられる。なお、楕円幾何学のことをリーマン幾何と呼ぶことがあるが、本稿で述べるリーマン幾何学はそれとは異なるものである。
アルベルト・アインシュタインは、重力、即ち、一様ではなく湾曲した時空を記述するのに擬リーマン多様体の枠組みが有効であることを見いだし、リーマン幾何学を数学的核心とした一般相対性理論を構築した。
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ユークリッド空間 その2
・直観的な説明
ユークリッド平面を考える1つの方法は、(距離や角度といったような言葉で表される)ある種の関係を満足する点集合と看做すことである。例えば、平面上には2種類の基本操作が存在する。1つは平行移動で、これは平面上の各点が同じ方向へ同じ距離だけ動くという平面のずらし操作である。いま1つは平面上の決まった点に関する回転で、これは平面上の各点が決められた点のまわりに一貫して同じ角度だけ曲がるという操作である。ユークリッド幾何学の基本的教義の1つとして、2つの図形(つまり点集合の部分集合)が等価なもの(合同)であるとは、平行移動と回転および鏡映の有限個の組合せ(ユークリッドの運動群)で一方を他方に写すことができることをいう。
これらのことを数学的にきちんと述べるには、距離や角度、平行移動や回転といった概念をきちんと定義せねばならない。標準的な方法は、ユークリッド平面を内積を備えた二次元実ベクトル空間として定義することである。そうして
ユークリッド平面の点は、二次元の座標ベクトルに対応する。
平面上の平行移動は、ベクトルの加法に対応する。
回転を定義する角度や距離は、内積から導かれる。
といったようなことを考えるのである。こうやってユークリッド平面が記述されてしまえば、これらの概念を勝手な次元へ拡張することは実に簡単である。次元が上がっても大部分の語彙や公式は難しくなったりはしない(ただし、高次元の回転についてはやや注意が必要である。また高次元空間の可視化は、熟達した数学者でさえ難しい)。
最後に気を付けるべき点は、ユークリッド空間は技術的にはベクトル空間ではなくて、(ベクトル空間が作用する)アフィン空間と考えなければいけないことである。直観的には、この差異はユークリッド空間には原点の位置を標準的に決めることはできない(平行移動でどこへでも動かせるため)ことをいうものである。大抵の場合においては、この差異を無視してもそれほど問題を生じることはないであろう。
・厳密な定義
非負整数 n に対して n-次元ユークリッド空間 En とは、空でない集合S と n 次元実内積空間 V の組 (S, V) で、次をみたすものをいう:
各 P, Q∈ S に対して、V のベクトルPQが1つ定まっている。
任意の P, Q, R ∈ S に対して、。
任意の P∈ S と任意の v∈ V に対して、ただ1つの Q∈ S が存在して、
。
ある非負整数 n に対するn-次元ユークリッド空間であるものを単にユークリッド空間と呼ぶ。
数空間 Rn の各点x, y に対してと定義すれば、Rn と(標準内積を持った内積空間としての)Rn の組 (Rn, Rn) はユークリッド空間の1つの例であり、これを n-次元の標準的ユークリッド空間と呼ぶ(記号の濫用で、これをやはり単に Rn で表す)。
(S,V) を n-次元ユークリッド空間とするとき、S の点 O と V の順序付けられた基底 (e1, e2, ..., en) の組 (O; e1, e2, ..., en) を(S, V) の座標系と呼び、点 O を座標系の原点と呼ぶ。特に (e1, e2, ..., en) が V の正規直交基底であるような座標系を直交座標系と呼ぶ。(S, V) の座標系 (O; e1, e2, ..., en) が1つ固定されると、任意の P ∈ S に対して、ただ1つの x = (x1, x2, ..., xn) ∈ Rn が存在して、
が成り立つ。そこで、この x ∈ Rn を座標系 (O; e1, e2, ..., en) におけるP の座標と呼ぶ。
いったん直交座標系が固定されると、n-次元ユークリッド空間 (S, V) は n-次元の標準的ユークリッド空間 (Rn, Rn) と同一視することができるので、ユークリッド空間といったら標準的ユークリッド空間のことを指す場合も多い。
なお、n-次元ユークリッド空間の定義において、「実内積空間」を「実ベクトル空間」に置き換えて得られる空間を n-次元アフィン空間と呼ぶ。ユークリッド空間は計量(内積)をもった特別なアフィン空間であるということができる。計量をもたないアフィン空間においては、二点間の距離や線分のなす角などは定義されないが、ユークリッド空間においてはこれらの概念を定義することができる。(定義についてはここで省略する。必要に応じて専門書を参照して下さい。)
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ユークリッド空間 その3(終わり)
・ユークリッド空間の点集合論
平行移動、鏡映、回転などの (free) motions 、アフィン変換、射影変換などで安定な点集合論→ エルランゲン計画
En,Rn, 平行移動群 Tn との同相性など
距離空間の位相, 完備性, 局所コンパクト性etc
曲率や(二次形式orリーマン)計量など
ホモロジーやホモトピーなど
・位相構造
ユークリッド空間は距離空間であるから、距離から誘導される自然な位相を持った位相空間でもある。En 上の距離位相は、ユークリッド位相あるいは通常の位相と呼ばれる。すなわち、ユークリッド空間の部分集合が開集合であるための必要十分条件は、その部分集合に属する各点に対して、それを中心とする適当な大きさの開球体をその部分集合が必ず含むことである。ユークリッド位相は、Rn を(標準位相を備えた)実数直線 R の n 個のコピーの直積と見たときの直積位相と同値であることが確かめられる。
ユークリッド空間の位相的性質について、「Enの部分集合は、それがある開集合に同相となるものならばそれ自身が開集合である」というブラウウェルの領域の不変性定理が知られている。またその帰結として、n ≠ m であれば En とEm は互いに同相でないことが示せる。これは明白な事実のようであるが、それでいて証明するとなるとそれは容易ではない。
・微分構造・異種空間
n 次元ユークリッド空間は n 次元(位相)多様体の原型的な例であり、可微分多様体の例ともなっている。n が4 でなければ n 次元ユークリッド空間に同相な位相多様体は、可微分構造まで込めて同相(微分同相)である。しかし n = 4 のときはそうならないという驚くべき事実が、1982年にサイモン・ドナルドソンによって証明された。この反例となる(すなわち 4 次元ユークリッド空間と同相だが微分同相でない)多様体は異種4次元空間 (exotic 4-spaces) と呼ばれる。
・一般化
現代数学において、ユークリッド空間はほかのより複雑な幾何学的対象の原型を成している。例えば、可微分多様体は局所的にユークリッド空間に微分同相であるようなハウスドルフ位相空間である。微分同相写像は距離や角度といったものは考慮しないので、ユークリッド幾何学で重要な役割であったこれらの概念を可分多様体の上で考えることは一般にはできない。それでも、多様体の接空間上に滑らかに変化する内積を入れることはできて、そのようなものをリーマン多様体と呼ぶ。表現を変えれば、リーマン多様体はユークリッド空間を変形し、貼り合わせて構成される空間である。そのような空間では距離や角度の概念を取り扱うことができるが、その振る舞いは曲率を伴う非ユークリッド的なものとなる。最も単純なリーマン多様体は、一定の内積を備えた Rn で、これは本質的に n-次元ユークリッド空間そのものと同一視される。
内積が負の値をとりうるものとして得られるユークリッド空間の類似物は擬ユークリッド空間と呼ばれ、そのような空間から構成した滑らかな多様体は擬リーマン多様体と呼ばれる。これらの空間の最もよく知られた応用はおそらく相対論で、そこでは質料を持たない空でない時空はミンコフスキー空間と呼ばれる平坦擬ユークリッド空間によって表される。また、質料を持つ時空は擬ユークリッドでない擬リーマン多様体を成し、重力はその多様体の曲率に対応する。
相対論の主題としての我々の宇宙はユークリッド的でない。これは天文学と宇宙論の理論的考察において重要であり、また全地球測位システムや航空管制などの実務的な問題でも重要になる。それでも、宇宙のユークリッド的なモデルは、多くの実用上の問題において十分な正確さを持って解決するために利用することができる。
Rをピタゴラス的な順序体に取り替えても類似の距離が定義できて、運動群などの構造が乗る。
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ミンコフスキー空間 その1
物理学や数学におけるミンコフスキー空間(Minkowski space)またはミンコフスキー時空とは、アルバート・アインシュタインによる特殊相対性理論を定式化する枠組みとして用いられる数学的な設定である。この設定の下では通常の三次元の空間が一次元の時間と組み合わされ,時空を表す四次元の多様体を考えることになる。ドイツの数学者のヘルマン・ミンコフスキーにちなんでこの名前がつけられている。・構造
形式的にはミンコフスキー空間とは、実四次元のベクトル空間に符号 (-,+,+,+) の非退化な対称双線形形式を与えたものだということができる。ミンコフスキー空間の元は事象または4元ベクトルとよばれる。ミンコフスキー空間は計量の符号を強調するためにしばしば R1,3 と書かれるが、M4 や、単に M という表記もみられる。
・ミンコフスキー内積
ミンコフスキー空間における内積は通常のユークリッド空間における内積と見かけ上似通ったものだが、相対性理論のための幾何など別の種類の幾何的な構造を説明するために用いられる。M を4次元の実ベクトル空間とするとき、M 上のミンコフスキー内積とは写像η : M × M → R(つまり、任意の M のベクトルV, W に対し実数η(V, W) を考えることになる)であって、次の4つの条件を満たすもののことである:
双線形性: η(aU + V, W) = aη(U, W) + η(V, W)(∀a ∈ R, ∀U, V, W ∈ M)
対称性: η(V, W) = η(W, V) (∀V, W ∈ M)
非退化性: 任意のW∈ M についてη(V, W) = 0 ならば V = 0
ミンコフスキー符号: 内積η は符号 (-,+,+,+) をもつ
ここで、はじめの三条件から正定値性(V ≠ 0 ならばη(V, V) > 0)は従わず、これらを満たす写像は通常の意味での内積とは限らないことに注意しなければならない。つまりベクトル V のミンコフスキーノルムの二乗 V2 = η(V, V) は正の数になるとは限らないし、V が零ベクトルでなくても0 になることがありうる。ここで正定値性はより弱い条件である非退化性に置き換えられており、この内積は不定な内積だといわれる。
ユークリッド空間と同じように、η(V, W) = 0 となっているとき2つのベクトルは直交しているといわれる。しかし、ミンコフスキー空間では2つのベクトルが張る平面の上でη が常に負になるような場合をも考えることになる。この現象は通常の複素平面が持つユークリッド構造に対する変形として考えられる二次元のクリフォード代数
A= R.1 ⊕ R.v, v2 = 1
の類似と見なすことができる。
ベクトル V はV2 = ± 1 を満たすとき単位ベクトルとよばれる。互いに直交する単位ベクトルからなる M の基底は正規直交基底とよばれる。シルベスターの慣性律(あるいはグラム・シュミットの正規直交化法)によって、上の条件 1-3 を満たす内積は必ず正規直交基底をもち、基底に現れる正の単位ベクトルと負の単位ベクトルの数は基底の取り方によらないことが従う。この、基底に現れるベクトルの正負の数の対は考えている内積の符号とよばれる。従って、ミンコフスキー内積は正の単位ベクトル3つと負の単位ベクトル1つからなる正規直交基底を持つことになる。
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で与えられる。
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サニャック効果 その1
サニャック効果(Sagnac effect)とは、回転系下において、非慣性系を説明する一般相対論に基づき、移動経路(および移動方向)に依存する形の時間のずれが生じる効果・現象を指す。回転系とは、観測者の座標系が慣性系に対して回転運動している系を言い、非慣性系に属する。
狭義では角速度を検出するリングレーザージャイロスコープ等において光伝播速度が伝播方向に依存する効果・現象を指す。
これは回転系から慣性系に移行して考えることにより当然のことと理解可能な現象と言える(したがって一般相対論を敢えて知る必要は無いとも言える)。
・一般相対論に基づくサニャック効果の説明
サニャック効果は、回転系の下で、移動経路(および移動方向)に依存する形で生じる時間のずれを指すが、この時間のずれとは相対論的な固有時のずれ(時間の遅れ)を指す。非慣性系下の事象を記述する一般相対論に従えば、移動経路に依存する形で生じる時間のずれは当然の事象とされる(大域的同時性の不成立)。
一般に、非慣性系の下では上記のずれが生じ、時計の進みには単なる特殊相対論的なずれが生じるだけではなく、ある経路上に沿って時計を持って移動することを考えると、移動経路に依存するずれが生じる。実際に、非慣性系の下では、異なる2つの経路(例えばa→b→cとa→b'→c。bとb'とは異なる時空点であると仮定。)を移動させた後のそれぞれの時計を比較することによって、両者のずれの差を観測できる。光などの信号が経路を伝播する場合は伝播時間が「伝播経路長÷伝播速度+移動経路に依存する伝播時間のずれ」(もしくは伝播速度自体のずれ)として観測される。自由伝播経路も直線とはならない。これらは光伝播の重力レンズ効果とも基本的に話は同様である。
特に回転系に特有な時間のずれとこれに起因する効果をサニャック効果と呼び、移動方向に対して時間のずれは非等方性を示す。典型例としてリングレーザージャイロスコープでは、光などの信号伝播は、ある周回経路上を回転系回転軸に対して右回りと左回りに1周する2つの経路の信号伝播時間には差が生じる。すなわちこの周回経路を回転軸(角速度)に垂直な平面に投影した閉曲線が囲む面積をとすると、サニャック効果によって、に比例する時間のずれがそれぞれに生ずる。
・リングジャイロスコープ
実際に半径の円周経路及び観測者が慣性系に対して角速度で回転しているとし、光(もしくは速度の物質波)がその経路を正もしくは負の方向に一周するのに要する時間は
となる。
これは慣性系(非回転系)へ移行して説明すれば当然と言える。すなわち回転系の相対論に基づく理解ではなく、慣性系へ移行して現象を理解してよい。本稿のリングレーザージャイロスコープの原理の説明も、この流儀に基づいて行う。
・時間の遅れ
他の一例として、赤道に沿って時計を移動させ地球(自転角速度ω)上を1周させることを考える。東向きと西向きの移動とで時計の進み方に差が生じ、一周後の時間の遅れはそれぞれ±2c-2ωSとなる。
これも慣性系(非回転系)に移行し、対地速度±v及び0で移動する時計が示す時間の遅れを求めれば当然の事象と言える。
また、赤道一周に沿って極めて多数個の時計をほとんど無限小間隔で並べ、一周の始点から終点へ向けて、順に隣接する時計の対を全て同期させていったとする。なおこの同期は回転系下を考慮した補正等を加えないと仮定する。そして始点上と終点上の時計を比較すると上記と同じ「ずれ」2c-2ωSが生じている。
・人工衛星地上間信号伝播
他の一例として、赤道上空の静止衛星から直下方向の地表点へ電波信号を伝播させることを考える。その伝播時間は「二点間距離÷光速度+サニャック効果によるずれ」として観測される(光速度=c)。この自由伝播経路も直線とはならない。
この伝播時間も、慣性系(非回転系)へ移行すれば単なる直線経路伝播に基づき計算は容易となる。
実際にGNSS(GPS)衛星から地上への信号伝播時間に対して回転系・非回転系の相違を無視した場合は、そのサニャック効果による誤差は100ns(換算すると30m)に達する。
また複数の人工衛星地上間信号伝播路を繋ぎ合わせた1つの閉曲線を考える。この信号伝播時間の総和には時間のずれとして東向きと西向きの1周にそれぞれ±2c-2ωSの項が生じる。
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標準模型 その1
標準模型(略称:SM)とは、素粒子物理学において、強い相互作用、弱い相互作用、電磁相互作用の3つの基本的な相互作用を記述するための理論のひとつである。標準理論または標準モデルとも言う。
概要
標準模型は、強い相互作用についての量子色力学、弱い相互作用と電磁相互作用についてのワインバーグ=サラム理論をあわせた
ゲージ対称性に基づいて、ヒッグス機構による真空の対称性の破れとフェルミオンの質量獲得、アノマリーの相殺の要請によるフェルミオンの世代構造と世代間混合とCP対称性の破れについての小林・益川理論などの理論の総称である。標準模型は特殊相対性理論と整合する量子論として、場の量子論的方法で記述されている。
標準模型のゲージボソン | ||
粒子名 | 記号 | ゲージ対称性 |
グルーオン | G | SU(3)c |
Wボソン | W | SU(2)L×U(1)Y |
Zボソン | Z | |
光子 | A |
SU(2)LとU(1)Yに対応するゲージボソンに関しては、ヒッグス機構によりゲージボソンの混合と質量の獲得が起こるので、多少複雑な様相を呈する。ウィークアイソスピン SU(2)L の非対角成分は質量を獲得してWボソンとなり、対角成分とウィークハイパーチャージ U(1)Y は交じり合って、質量を獲得するZボソンと質量を獲得しないフォトンになる。
標準模型のフェルミオン | ||
粒子名 | 記号 | 表現 |
クォーク | Q | (3,2)1/6 |
上系列反クォーク | U | (3*,1)-2/3 |
下系列反クォーク | D | (3*,1)1/3 |
レプトン | L | (1,2)-1/2 |
反荷電レプトン | E | (1,1)1 |
フェルミオンは強い相互作用をするクォークと、強い相互作用をしないレプトンに分けられる。さらに、クォークとレプトンは、それぞれ左手型(left-handed)粒子と右手型(right-handed)粒子に分類することができる。標準模型における左手型フェルミオン粒子は電弱相互作用のウィークアイソスピンを持つが、右手型粒子は持たない。そのため、左手型粒子と右手型粒子ではゲージ相互作用の仕方が異なり、標準模型はゲージ相互作用に関してカイラルな理論となっている。また、この性質のために、電弱対称性がヒッグス機構によって破れないかぎり、全てのクォークとレプトンは質量を持つことができない。全てのクォークと荷電レプトンは、ヒッグス機構によって質量を獲得する。ニュートリノは標準模型の範囲内では質量を持つことはない。
フェルミオンは左手型クォークと左手型レプトン、右手型アップクォークと右手型ダウンクォーク、右手型荷電レプトンで世代と呼ばれるグループを構成する。一般に、ゲージ相互作用を含む模型については、カイラルアノマリーと重力アノマリーが相殺されている必要があるが、世代を構成するフェルミオンの間でアノマリーが相殺される構成になっている。標準模型は、3世代のクォークとレプトンが存在する。小林・益川理論によると、フェルミオンの混合によりCP対称性が破れる為には3世代以上のフェルミオンが必要である。実際に、フェルミオンの混合に起因するCP対称性の破れは実験で確認されており、標準模型による予言と良く一致することが確かめられている。
標準模型では、ヒッグス機構により電弱対称性が自発的に破れる。一般に場の揺らぎは粒子として解釈されるが、ヒッグス場の4つある揺らぎの自由度のうち3つは、WボソンとZボソンが質量を持つことに伴い、その縦波成分として吸収される。残りの1自由度は、スピン0のスカラー粒子であるヒッグス粒子としてあらわれる。2012年7月にジュネーブ郊外の欧州原子核研究機構(CERN)で行われているLHC実験により新粒子の発見が発表された。この新粒子の性質はヒッグス粒子と良く一致しているとされている。ヒッグス粒子の生成および崩壊の様子を詳しく調べることにより、精度を高める実験が継続中である。
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標準模型 その2
・歴史
1928年 - ポール・ディラックが相対論的量子力学により、電子の反粒子の存在を予言。(ディラック自身はこの粒子を陽子と解釈しようとした)
1931年 - ヴォルフガング・パウリがニュートリノの存在を予言。
1932年 - カール・デイヴィッド・アンダーソンにより、電子の反粒子である陽電子が発見される。
1948年 - 朝永振一郎、リチャード・P・ファインマン、ジュリアン・シュウィンガーによる量子電磁力学の繰り込みの発表。
1954年 - 楊振寧、ロバート・ミルズによりヤン・ミルズ理論が発表される。
1956年 -
楊振寧、李政道によるパリティの破れの予言。
フレデリック・ライネス、クライド・カワンらによるニュートリノの発見。
1957年 - 呉健雄らがコバルト60のベータ崩壊においてパリティが破れていることを観測する。
1964年 -
ジェイムズ・クローニン、ヴァル・フィッチらにより、K中間子の崩壊においてCP対称性が破れていることを観測される。
マレー・ゲルマンによりクォーク模型が提唱される。
ピーター・ヒッグスによりヒッグス機構が提唱される。
1967年 - スティーブン・ワインバーグにより後のワインバーグ=サラム理論が発表される。(1968年にアブドゥッサラームも独立に発表)
1971年 - ヘーラルト・トホーフト、マルティヌス・フェルトマンがヤン・ミルズ理論の繰り込みに成功。
1973年 -
小林誠と益川敏英による小林・益川理論の提唱。
デイビッド・グロスとフランク・ウィルチェック、H. デビッド・ポリツァーによる漸近的自由性の発見
ガーガメル実験(Gargamelle)により、中性カレント反応(Zボゾンを介した相互作用)の発見。
1974年 - サミュエル・ティン、バートン・リヒターにより、独立にジェイプサイ中間子(チャームクォーク)が発見される。(11月革命)
1977年 - レオン・レーダーマンにより、ウプシロン中間子(ボトムクォーク)が発見される。
1983年 - カルロ・ルビア、シモン・ファンデルメールにより、Wボソン、Zボソンの発見。
1995年 - テバトロン実験により、トップクォークが発見される。
2012年 - LHC実験によりヒッグス粒子の発見。
・未解決の問題1990年代までに得られた、3つの力に関するほとんどすべての実験結果は標準模型による予言と一致する。その一方で、理論的または実験・観測的観点から、標準模型は解決すべき問題をいくつか抱えている。このことは、標準模型を超えた物理 (Physics beyond theStandard Model)の存在を示唆する。この節では、標準模型において未解決の問題を列挙する。
・重力の量子化
標準模型は重力に対する記述を欠いている。これは、重力を量子論的に記述する枠組みが知られていないためである。そのような枠組みの候補としては、超弦理論、ループ量子重力理論などが挙げられる。
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標準模型 その3(終わり)
・大統一理論
標準模型のゲージ対称性は3つの対称性の直積で書かれているが、これがより大きなゲージ対称性の一部であったとする考え方が大統一理論である。大統一理論のシナリオでは、高いエネルギースケールで対称性が自発的に破れた結果、標準模型のゲージ対称性があらわれる。陽子崩壊などが予言されるが、未だ実験的証拠は得られていない。
・階層性問題
繰り込み理論と関連して、標準模型においては、ヒッグス機構による電弱対称性の自発的破れの大きさを観測事実と合わせるために、理論のパラメーターを非常に精密に調整する必要がある。この問題は、プランクスケール(1019GeV)と電弱対称性が破れるスケール(102GeV)の間に大きな隔たりがあることに起因しており、階層性問題と呼ばれている。この問題を解決する模型として提案されているものの1つが超対称性模型である。
・強いCP問題
中性子の電気双極子モーメントの測定により、強い相互作用に関してCP対称性が高い精度で成立していることが分かっている。しかし、このようなことが起こるためには、強い相互作用に関するパラメーターと湯川行列の位相を上手く調節されている必要がある。関連性の薄いパラメーターが都合良く調整されていることは不自然であり、何らかの機構によって解決されるべきであると考えられている。これが強いCP問題である。解決策の一つとして有力視されているものが、Peccei-Quinn機構(Peccei–Quinn theory)であり、それによってアクシオンと呼ばれる新しい粒子の存在が予言される。
・世代数の謎
3世代のフェルミオンが存在する理由は未だ不明である。
・ニュートリノ振動
標準模型ではニュートリノの質量は0であることが予言される。1998年に神岡鉱山に設置されたスーパーカミオカンデによりニュートリノ振動が発見されたが、これはニュートリノの質量が0ではないことの証明となっている。標準模型と矛盾する数少ない実験結果の一つとして重要である。
・暗黒物質
現在の宇宙のエネルギー密度の約1/4を暗黒物質が占めていることが明らかになっているが、標準模型には暗黒物質の候補となる粒子が存在しない。そのため、暗黒物質の正体を素粒子に求める場合は標準模型の拡張が必要である。
・バリオン数の非対称性
我々が住む宇宙では、物質の量が反物質に比べて圧倒的に多い。この問題はバリオン数の非対称性と呼ばれるが、この問題を標準模型の枠内で解決することは困難である。
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ゲージ理論 その1
ゲージ理論(gauge theory)とは、連続的な局所変換の下でラグランジアンが不変となるような系を扱う場の理論である。ゲージ対称性とも言う。
・概要
ゲージという用語は、ラグランジアンの余分な自由度を表している。この自由度を変換する操作をゲージ変換と呼ばれる。ゲージ変換はリー群を為し、ゲージ変換の為すリー群は理論の対称性あるいはゲージ群と呼ばれる。リー群には生成子のリー代数が付随する。それぞれの生成子に対応してゲージ場と呼ばれるベクトル場が導入され、これにより局所変換の下での不変性(ゲージ不変性)が保証される。ゲージ場を量子化して得られる粒子はゲージ粒子と呼ばれる。非可換なゲージ群の下でのゲージ理論は非可換ゲージ理論と呼ばれ、ヤン=ミルズ理論が代表的である。
物理学における有用な理論の多くは、幾つかの変換の下で不変なラグランジアンによって記述される。時空の全ての点において一斉に行われる大局的変換の下で不変であるとき、理論は大局的対称性を持つと言う。局所変換の下での不変性(ゲージ対称性)はより強い制約を要求する。実際、大局的変換とは、変換のパラメータが時空内で一定の局所変換である。
ゲージ理論は素粒子を記述する場の理論として成功している。量子電磁力学はU(1)対称性に基づく可換ゲージ理論であり、ゲージ場としては電磁場が対応し、これを量子化すると光子が得られる。標準模型はSU(3)×SU(2)×U(1)対称性に基づく非可換ゲージ理論であり、光子、3つのウィークボソンおよび8つのグルーオンの合計12のゲージ粒子を持つ。
ゲージ理論は重力を記述する一般相対性理論においても重要な役割を持つ。一般相対論の場合は、ゲージ場がテンソル場である。量子重力理論において、このゲージ場を量子化した重力子が存在すると考えられている。ゲージ不変性は、一般相対性原理の主張する、任意の座標変換の下での不変性と類似するものと見なすことができる。両方の不変性はともに系の自由度の冗長性を反映している。
場の量子論の文脈において、いくつかの現実的な仮定を置くと、散乱行列が満たすことができる連続的な対称性はポアンカレ対称性と内部対称性だけになる事が示されている(Coleman-Mandula theorem)。また実験的にも、現実の物理がゲージ対称性を持つと仮定するとうまく説明できる結果が、主として20世紀の間に数多く発見された。これらのことからゲージ不変性の要請は現代物理学における基本原理の1つとされており、ゲージ原理と呼ばれることもある。
歴史的には、これらの概念は初めは古典電磁気学で、そして後に一般相対性理論において考えられていた。しかしながら、以下に詳しく述べるように、ゲージ対称性の現代的な重要性は電子の相対論的量子力学である量子電磁力学において最初に現れた。今日、ゲージ理論は物性物理学、原子核物理学或いは高エネルギー物理学の関わる分野で非常に有用である。
・歴史
ゲージ変換の自由度を持った最初の理論は電磁気学における、1864年のマクスウェルによる電磁場の公式であるが、この概念の重要性は気付かれないままであった。
1915年にアインシュタインにより発表された、重力を時空の幾何学的性質として記述する一般相対性理論が成功を収めると、電磁気学も同様に、時空の幾何学的性質として表現しようという試みが盛んになった。その最初が1918年にワイルが発表したゲージ理論である。ワイルは一般相対性理論における二点間の距離を変えない座標変換(等長変換)の自由度を拡張し、スケール変換の下での不変性もまた時空の局所対称性であるとし、各点で「物差し」("ゲージ")を変えても理論が変わらないことを要請して電磁気学の導出を試みたが幾つかの理論的な欠陥により失敗した。
量子力学が提唱された後、ワイルによる当初のゲージ理論は修正され、スケール変換を波動関数の複素数の位相変換に置き換えられた。これがいわゆるU(1)ゲージ理論である。これは荷電粒子の波動関数に対する量子力学的な電磁力学を説明し、成功した最初のゲージ理論であると広く認識されている。長さを位相に置き換えたことで、ゲージ理論の有効性を証明したが、(外部)時空の幾何学的性質は失われ、ゲージ対称性は内部空間における対称性となった。 1940年代になって、パウリによってこの理論は一般に広められた。
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出典:フリー百科事典「ウィキペディア」より引用
ゲージ理論 その2(終わり)
・非可換ゲージ理論
1954年に楊振寧とミルズは核子の強い相互作用を説明するモデルを提唱した。彼らは、電磁相互作用のU(1)対称性の理論を一般化して、陽子と中性子のアイソスピンSU(2)対称性に基づいた理論を構築した。このモデル自体は実験と整合しなかったが非可換対称性に基づくヤン=ミルズ理論として多くの理論の原型となった。
このアイデアは後に、弱い相互作用と電磁相互作用を統一する電弱相互作用への応用が見いだされた。さらに、非可換ゲージ理論は漸近的自由性を呼ばれる特徴を再現できることが判明したことで、ゲージ理論はより魅力的なものとなった。漸近的自由性は強い相互作用の重要な特徴であると見なされていた。これにより、強い相互作用のゲージ理論を探求しようという動機が生まれた。この理論は量子色力学と呼ばれ、クォークのカラーSU(3)対称性に基づくゲージ理論である。ゲージ理論は、量子電磁力学 (QED) 、量子色力学 (QCD) およびワインバーグ=サラム理論の基礎をなしている。さらに、電磁相互作用、弱い相互作用および強い相互作用を統一する標準模型はゲージ理論の言葉で記述されている。
・統一理論におけるゲージ理論
物理におけるゲージ理論の重要性は、電磁相互作用、弱い相互作用および強い相互作用の場の量子論を記述する統一的枠組みを与える数学的定式化の多大な成功に基づいている。この理論は標準模型として知られ、自然の四つの基本相互作用のうち三つに関する実験的予測を精密に記述し、ゲージ群SU(3) × SU(2) × U(1)を持つゲージ理論である。弦理論や一般相対論のカルタン形式のような現代的な理論はなんらかの形のゲージ理論である。
・数学におけるゲージ理論
1970年代になって、マイケル・アティヤは古典的ヤン=ミルズ方程式の数学的解決法の研究を始めた。1983年、アティヤの学生サイモン・ドナルドソンは滑らかな4次元多様体は微分可能な分類は、位相同型の違いを除いて彼らの分類とは異なっていることを示す方向でこの研究を進めた。マイケル・フリードマンはドナルドソンの研究成果を用いて、エキゾチックR4、すなわち4次元ユークリッド空間上のエキゾチックな微分構造を提示した。これは、ゲージ理論自身が持つ、基礎物理における成功とは独立した、数学的構造に対する関心を呼び起こした。1994年、エドワード・ウィッテンおよびネーサン・サイバーグは、超対称性に基づいたゲージ理論的テクニックを発見した。これはあるトポロジー的不変性を計算することができる。これら、ゲージ理論からの数学への貢献は、この分野の新たな関心として注目されている。
ゲージ理論および場の量子論の歴史に関するより詳細な資料はPickeringの書籍を参照のこと。
・ゲージ場
-大域的対称性
電子の場の理論を考えよう。どちらが実軸でどちらが虚軸であるかをとりかえることは、絶対値が1の複素数をかけて位相をかえることに相当する。この絶対値1の複素数をかける操作は U(1) を為し、これをU(1)変換という。電子だけの理論をみてみると、時空によらない絶対値1の複素数を場にかけても理論は変化しない。すなわち理論は U(1) 対称性を持つ。このように、時空の全ての点で一斉に同じだけ場を変換することを大域的変換、変換に対して理論が不変であることを、理論が大域的対称性を持つという。
-ゲージ対称性
しかし、時空に依存する絶対値1の複素数をかけてみると、時空に対する微分があるせいでそのままでは理論は不変でない。そこで、その不変でない部分を相殺するような場を導入する。この場をゲージ場と呼ぶ。ゲージ場は、微小に離れた2点での物差し、ゲージを比較できるようにする働きがあり、それによって理論が不変になる。このように、時空上の各点ごとに異なる変換を行うことを局所的ゲージ変換、または単にゲージ変換と呼び、理論がゲージ変換で不変であることを、理論はゲージ対称性を持つという。また、局所的ゲージ変換のなす群をゲージ群と呼ぶ。この U(1) ゲージ場を詳しく調べると、電磁場と同一視できることがわかる。電磁場をゲージ場に持つゲージ群 U(1) を特に U(1)EM (electromagneticの意)と書くこともある。電磁場とは関係の無い U(1) ゲージ群も存在するためである。
クォークの場はカラーと呼ばれる3つの成分を持ち、3×3行列を掛けることに対して大域的に不変である。これはSU(3)変換(SU(3)c,colorの意)と呼ばれる。これを局所的にゲージ不変にすることに伴うゲージ場がグルーオンであり、強い相互作用を記述する。このゲージ理論が量子色力学で、非可換ゲージ理論の典型例である。非可換ゲージ理論は初め楊振寧とロバート・ミルズにより強い相互作用の理論として提唱されたが、そのときの形式は現代の量子色力学とはやや異なる。
また、中性子のベータ崩壊などに関わる弱い相互作用も、2×2行列を掛けるSU(2)変換に伴うゲージ理論を含み、電磁場のゲージ理論と統合されるゲージ理論であることが知られている。歴史的にはトフーフトが非可換ゲージ理論(例えば、電磁相互作用と弱い相互作用の統合)が繰り込み可能であることを示し、ゲージ理論の重要性が認識された。
「平坦な時空の計量を変えずに時空の座標軸の向きを変えても式の形が変らない」とするのが特殊相対性原理で、「各点で任意に時空の座標軸の向きを換えても式の形が変らない」とするのが一般相対性原理である。一般相対性原理を要求するとゲージ場が必要となり、それが重力場であると初めて指摘したのが内山龍雄である。
自然界の4つの基本相互作用はすべてゲージ理論で記述され、ゲージ原理として素粒子物理の基礎となっている。
・ゲージ粒子
場の量子論では、量子化された場の励起として粒子を記述している。ゲージ場を量子化して得られる粒子をゲージ粒子という。その相互作用がゲージ理論で記述されている素粒子間において、(仮想粒子として)ゲージ粒子が交換されることにより力が生じる。
・数学との関連
ヤンとミルズが強い力のゲージ理論を見つけたころ、数学でもほぼ同時にファイバー束の理論が整備された。これはゲージ場の理論と数学的に等価であることが徐々に認識され、その後の数学と物理の交流の元となった。
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場の量子論 その1
場の量子論(Quantum Field Theory)は、量子化された場(素粒子物理ではこれが素粒子そのものに対応する)の性質を扱う理論である。
・概要
現代的な立場では、量子論の中でも、基本変数として「粒子や剛体の古典力学と同じもの(たとえば位置と運動量)」に選び、足りないもの(スピンなど)は適宜補った量子論を「量子力学」と呼び、基本変数として「場とその時間微分または共役運動量」に選んだ量子論を「場の量子論」と呼ぶ。量子力学は、場の量子論を低エネルギー状態に限った時の近似形として得られる。現代では、古典的に場であったもの(電磁場など)だけでなく、古典的に粒子とみなされてきた物理系(電子など)の量子論も、場を基本変数にしたほうが良いことが判っている。
場の量子論は、高エネルギーの系や、凝縮系(多体系)を記述する。場の量子論は特殊相対論的要請を満たす形式を備え、量子力学と特殊相対性理論の両方を満足する。素粒子物理、原子核物理学や物性物理といった領域で、基礎理論として用いられる。
素粒子物理学
素粒子の振る舞いを記述するのに用いられる。素粒子が反応し新たな素粒子となる現象はその一例である。量子電磁力学、ワインバーグ・サラム理論、量子色力学といった、実験によって検証されている理論や、弦理論等の仮説上の理論が、場の量子論を基礎として研究されている。
物性物理学
臨界現象・相転移などの多体論的効果を記述する。超伝導のBCS理論、量子相転移といった物理が、場の量子論の文脈により理解される。
摂動的場の量子論では、粒子の間に働く力は、力を伝える粒子の交換により生じる。例として電子の間に働く電磁力は、光子の交換により生じる。同様に、ウィークボソンは弱い力を媒介し、グルーオンは強い力を媒介する。
力を媒介するのと同じ場の励起である光子が、塊状の波として電磁波となり、またナノスケールの現象においては粒子のように振舞う。電子も同様で、対応した場の励起として表される。このように、古典物理での粒子と場は、場の量子論により粒子と場の2重性を持つ形式に書き改められる。
初めに完成した場の量子論は、電磁場に適用した量子電磁力学である。この理論は、非常に高い精度で実験結果と一致し、繰り込みやゲージを用いる方法はワインバーグ=サラム理論や量子色力学の基礎となった。
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場の量子論 その2
・数学的手法
量子化・相対論化
量子力学を場の量子論に拡張するために、場における粒子の生成/消滅を扱う生成消滅演算子を導入することで、場の量子化を行うことができる。また、場の波動関数を場の量子化によってディラック方程式に還元することで、相対論的不変形式へと相対論化できる。
ゲージ・繰り込み素粒子間の力の相互作用はゲージ理論によって記述され、発散の問題は繰り込みで回避される。
・成立史
-背景
ジェームズ・クラーク・マクスウェルの古典電磁気学では、粒子(荷電粒子)が場(電磁場)を生み、場が粒子に力を与える。これは、場の理論の最初の定式化である。
-原型
1927年から1928年、ポール・ディラックによる古典電磁気学の量子化、オスカル・クライン、パスクアル・ヨルダン、ユージン・ウィグナーおよびウラジミール・フォックによる生成消滅演算子が形成され、場の量子論の原型をヴェルナー・ハイゼンベルクとヴォルフガング・パウリが創った。これは後に、ディラック方程式と同等であることが判明する。
ハイゼンベルグは、場において粒子が力を伝えるという見解を打ち出した。これが湯川の強い力(中間子)、フェルミの弱い力(電子)の元となる。しかし、湯川の強い力にハイゼンベルグ・ボーアは否定的であり、確立されていなかった。
・相対論的共変・繰り込み
ハイゼンベルクおよびパウリらが作った原型は相対論を満たすが、相対論的共変形式を満たさなかった。1943年、朝永振一郎が超多時間理論でこれを解決する。これは1932年にポール・ディラックが提唱した多時間理論(相互作用をしている電子1つ1つに独立な時間を与える)の電子の生成・消滅を含まないという欠点改めたものである。また、リチャード・ファインマンも経路積分を完成し、またジュリアン・シュウィンガーもこの問題を独立して解決する。後に経路積分の方が一般的に使われるようになる。
・ゲージ理論
ゲージ理論の概念は、1918年にヘルマン・ワイルが創造した。ワイルは時空点ごとに「ゲージ」(ものさし)を与え、時空点が変わっても、理論が変わらないようゲージを決める(ゲージは一種の自由度で、理論不変なようにゲージ自由度を与える)ことを要求し、電磁場の導出を試みたが、実験と合わなかった。1927年、フリッツ・ロンドンは、長さを位相に変え、ゲージ理論の有効性を証明した。
1954年、楊振寧およびロバート・ミルズはゲージ対称性を非アーベル群に拡張した理論を定式化した(非可換ゲージ理論)。(ヴォルフガンク・パウリ、内山龍雄も独立して同様の理論を発見している。発表が遅れたため、パウリや内山らは非可換ゲージ理論の発見者と見なされない。)内山龍雄は重力場を含む形に拡張した(このため、ヤン=ミルズ=内山理論と呼ぶ人もいる)。この非可換ゲージ理論は、後に量子色力学やワインバーグ=サラム理論を定式化する際に用いられた。
・クォーク模型
1964年、マレー・ゲルマン、ユヴァル・ネーマンおよびジョージ・ツワイクにより独立にクォーク模型が見出された。この原型は坂田昌一による坂田模型と、そのフレーバー変換を群論形式で記述する方法を確立した大貫義郎らによるIOO理論SU(3)である。(これはクォーク模型の原型における対称性を群論で記述した最初の事例であり、素粒子論の核で群論を使う以後の流れを決定づける。
量子力学での群論の最初は、ヘルマン・ワイル1927年である。原子スペクトルの対称性を記述。また、1939年、ユージン・ウィグナーが原子核をSU(4) で記述する。しかし素粒子論の核での使用でなかった。これらは、素粒子の基本構造に迫るものではなく、素粒子研究で注目を浴びなかった。
IOO対称性は、素粒子の基本構造を始めて確立した。その後、クォークの基礎となる8道説や1/3電荷は、日本でも提案されたが、本格的に取り組まれないまま、ゲルマンなどのクォーク模型がでる。クォークに対応するグルーオン(力を伝える粒子)が担う場は、ゲージ理論によってゲージ場として記述される。
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場の量子論 その3
・自発的対称性の破れ
ゲージ理論では、ゲージ対称性を満たす場合、必然的にゲージ場の質量がゼロになる。しかし、光子を除く現実の粒子は質量を持ち、質量が力の及ぶ範囲を決める。1964年、これを救ったのが、ピーター・ヒッグスらのヒッグス機構で、南部陽一郎の自発的対称性の破れを使い解決した。電弱統一理論で、高温状態で電磁力と弱い力が区別できなくなることを示す。
自発的対称性の破れの概念は、ハイゼンベルグが強磁性体モデルにおけるスピンのSU(2)回転対称性について論じたのが始まりとされる。1960年に南部は、超伝導のBCS理論をヒントに対称性の自発的破れの概念を場の量子論において定式化した。
・量子色力学・ワインバーグサラム理論
量子電磁力学 (QED) は可換ゲージ理論である。一方、量子色力学 (OCD) およびワインバーグ=サラム理論は非可換ゲージ理論である。量子色力学は3つの場のからみ合いであり、ゲージも3×3の行列となり、QEDの可換ゲージから、非可換ゲージにかわる。
弱い力と電磁相互作用は、1967年、場の量子論の枠組みで非可換ゲージ形式のワインバーグ=サラム理論により統一される。
強い力は、クォーク模型の完成後、1971年にヘーラルト・トホーフトの非可換ゲージの繰り込み可能性の証明を経て、1973年に繰り込み群を使ったデイビッド・グロスらによって場の量子論の枠組みで非可換ゲージ形式の量子色力学 (QCD) が完成する。
・場の量子化
-量子力学と生成消滅演算子
量子力学での生成消滅演算子について。
(電磁場はA(x,t)すなわち、空間と時間を引数とする場の量として表される。)
前提
ハミルトニアン
粒子の運動は粒子エネルギーを表すハミルトニアン H=T+Vをつかい、例えばシュレーディンガー方程式で表される。
H=T+V H;ハミルトニアン(粒子のエネルギー)、T;運動エネルギー、V;ポテンシャルエネルギー
調和振動子
ハミルトニアンは、バネに例えられる調和振動子の和として表せる。(調和振動子だけでなくいろいろな形式がある。)
生成消滅演算子 調和振動子の生成消滅演算子の項を参照
系のエネルギーH=T+Vを、虚数を使い因数分解すると生成消滅演算子が出来る。(いろいろな作り方があり、いろいろな形式がある。)
生成消滅演算子は、粒子を真空から励起させたり、消滅させたりする演算子となる。
これらを使い、場の形式になった粒子を再び場の形式に落としこめる。
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場の量子論 その4(終わり)
量子力学
物質を場(状態-確率場)で表す。
物質粒子(電子)のハミルトニアンをψ(x,t)という場の量で記述する。この場の量は調和振動子であらわせる。
ψが従う調和振動子は、空間の微細分割個所に、バネが存在し、振動が互いに影響を及ぼしあうイメージでよい。
以上で、粒子を場で表した。
場で表した物質を粒子に戻す。
場の量ψから「粒子」の性質を導き出せる。
生成消滅演算子に変換し、状態(確率場)に作用させると、粒子がn個、励起される。これで、粒子の持つ個数の性質が出てくる。
これを第二量子化という。「励起状態」は、複数の電子の運動を表す。粒子を場にし、場を粒子に戻すという意味。場の量子化は、次。
・場の量子論
場に対し、量子力学と同様の方法で、場を作用素とみなし、量子化を実行し、生成消滅演算子を作用させると粒子性がでてくる。
量子力学では運動量などの物理量を演算子で置き換える量子化を行う。同様に電磁気学の電磁場を演算子に置き換えることを場の量子化という。つまり場の量子化で量子化されるのは「波動関数」ではなく「物理量としての場」である。(場の量子論での定義)
したがって、多体量子系を生成・消滅演算子で記述する理論である第二量子化とは異なる。ただ、歴史的な事情で場の量子化を第二量子化と呼ぶこともある。(量子力学と生成消滅演算子での定義)
物質粒子も電磁場も、空間の到る所に存在する「場」で表される。
真空には、Aやψのような場の量が存在し、場の量は僅かに振動している。完全な「虚空」は存在しない。
場の量子論は、物質と力の二元論を否定し、物質粒子も電磁場も同じ形式の場の量で表す。さらに場は粒子の形をし、粒子は場の形をし、粒子は場の力を伝える媒体となる。(ただし、粒子と場の力を伝える粒子は異なる。)
場の量子論は、粒子を場+粒子とするが、力を伝える場(電磁場)も同様に場+粒子とし、場も粒子も同一形式で扱う基礎理論である。