出典:フリー百科事典「ウィキペディア」より引用
ミンコフスキー空間 その2
・標準基底
ミンコフスキー空間における標準基底とは、互いに直交したベクトルの組 (e0, e1, e2, e3) で
-(e0)2= (e1)2 = (e2)2 = (e3)2 = 1
を満たすもののことである。これをまとめて
<eμ,eν> = ημν
と書くこともできる。ここで、μ とν は 0, 1, 2, 3 の値をとり、行列η は
で与えられる。
標準基底に関してベクトル V を (V0, V1, V2, V3) と成分表示したとき(アインシュタインの縮約記法では V = Vμeμ と書く)、成分 V0 は V の時間成分とよばれ、ほかの3つの成分は空間成分とよばれる。
成分を用いれば2つのベクトル V とW との内積は
<V,W> = ημνVμ Wν = -V0W0 + V1W1 + V2W2 + V3W3
とかけ、ベクトル V のノルムの二乗は
V2= ημνVμ Vν = -(V0)2 + (V1)2 + (V2)2 + (V3)2
とかける。
・別の定義の方法
上の節ではミンコフスキー空間がベクトル空間として定義されたが,実四次元ベクトル空間上のアフィン空間として定義する流儀もある。こちらの視点に立てば,ミンコフスキー空間を、ローレンツ群を固定群とするようなポアンカレ群の等質空間だと考えることになる。エルランゲンプログラムも参照のこと。
・ローレンツ変換
ミンコフスキー空間 Mからそれ自身への変換で、ミンコフスキー内積を保つようなものはローレンツ変換とよばれる。ローレンツ変換、ローレンツ群、ポアンカレ群も参照のこと。
・因果構造
ミンコフスキー空間の元(4元ベクトル)はその(ミンコフスキー)内積の符号によって分類される。4元ベクトルV に関して、
ηabVaVb = VaVa < 0であるときV は時間的であるといわれる
ηabVaVb = VaVa > 0 であるときV は空間的であるといわれる
ηabVaVb =VaVa = 0であるときV はヌル的(光的) であるといわれる
これらの用語は物理学における相対性理論でミンコフスキー空間が使われることからきている。ミンコフスキー空間内のヌルベクトル全体の集合は光錐を表している。これらの概念は指標系(標準基底の選択)によらずに定義されている。ヌルベクトルについては、2つのヌルベクトルが(ミンコフスキー内積に関して)直交しているならばそれらは平行である、という性質がある。
時間の向き(標準基底のe0)が選ばれると、時間的ベクトルやヌルベクトルを様々なクラスに分けることができる。時間的ベクトルについては
未来方向時間的ベクトルは負の時間成分(V0)を持つ
過去方向時間的ベクトルは正の時間成分を持つ
と分類でき、ヌルベクトルについては:
ベクトル空間の零元としての零ベクトル(成分が(0,0,0,0)となる)
未来方向ヌルベクトルは負の時間成分をもつ
過去方向ヌルベクトルは正の時間成分をもつ
と分類できる。空間的ベクトルとあわせて6つのクラスが考えられることになる。
ミンコフスキー空間の正規直交基底は必ず1つの時間的単位ベクトルと3つの空間的単位ベクトルからなっている。正規直交性を外した基底であればほかの組み合わせも可能になり、例えばすべてヌルベクトルからなるような(互いに直交していない)基底をとることができる。
・局所平坦時空
厳密にいえば,特殊相対性理論によってミンコフスキー空間をひろがりのある系を記述するために用いることができるのは重力がほとんど無視できる場合のニュートン極限に限られる。重力が無視できない場合には時空は歪み,特殊相対性理論の代わりに一般相対性理論を考えることが必要になる。
しかしながら,そのような場合でも(重力の特異点でない)一点の周りの無限小の領域はミンコフスキー空間でうまく記述できる。抽象的にいえば,重力がある場合には時空はゆがんだ四次元の多様体となり、各点での接空間がミンコフスキー空間となっている、と言い表すことができる。したがってミンコフスキー空間の構造は一般相対性理論においても本質的な役割を果たすことになる。
重力を弱めていった極限では時空は平坦になり、局所的にのみならず大域的にもミンコフスキー空間と見なせるようになる。このことからミンコフスキー空間はしばしば平坦な時空とよばれている。