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Channel: アンディマンのコスモロジー (宇宙論)
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宇宙の年表 その3
-宇宙の大規模構造の形成
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 ハッブル・ウルトラ・ディープ・フィールドは、初期の恒星がどのようであったのかを見せてくれる、ショー・ケースみたいなものである。
 
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 ハッブル天体望遠鏡は、最近形成された初期の銀河を捉えた。これは、宇宙論的な時間尺では銀河の形成は最近でも生じていることを意味している。これは、宇宙や銀河はまだ形成途中であることを示している。
ビッグバン理論における構造形成は階層的に、つまり小さい構造が作られてから大きい構造が作られる、というように進んでいる。最初の構造は、クエーサーと呼ばれる、明るく輝く活動銀河で、種族IIIの恒星(恒星の種族)であると考えられている。この時代より前では、宇宙の展開はすべての構造は完全に均一ではなくそこからわずかに逸脱しているという線形宇宙論的摂動理論により理解されている。これはコンピュータにより比較的簡単に研究される。この時からは非線形構造が形成されはじめ、コンピュータによる研究には大きな課題が現れる。例えば10億の粒子をあつかうN-body simulationなど。
プラズマ宇宙論は、宇宙の大規模構造となる巨大なガスのかたまりが最初に生まれ、そこから超銀河団、銀河団、銀河群へと分裂を繰り返し、銀河の構造が形成されたと説明している。
-再電離
最初のクエーサーは重力崩壊により形成される。クエーサーの放つ強い放射は周囲の宇宙を電離させる。この時点から宇宙の大部分はプラズマにより構成されることになる。
恒星の形成最初の恒星、おそらく種族IIIの恒星は、ビッグバンにより形成された軽い元素(水素、ヘリウム、リチウム)からより重い元素が生成されることにより始まる。ただし、種族IIIの恒星はまだ観測されていない。宇宙のミステリーである。
-銀河の形成
大きな体積の物質の崩壊は銀河を形成する。種族IIの恒星はこの初期に形成され、種族Iの恒星はその後形成される。最近の研究では銀河は地球からみて反時計回りの回転をともなうパリティ対称性の破れを有していることが示唆されている。
200796日、ヨハン・シェーデラーの企画は127億光年の位置にクエーサーCFHQS 1641+3755を発見した。これは、138億年の宇宙の歴史の7%地点にあたる。
200439日、ハッブル・ディープ・フィールドは130億光年の位置でたくさんの小さな銀河から大きな一つの銀河が誕生する様子を観測した。これは宇宙の歴史の5%地点である。
2007711日、マウナ・ケア山のWM・ケック天文台を利用してパサディナのカリフォニア技術研究所のリチャード・エリスとその一派は132億光年の位置に銀河を形成する6つの恒星を発見した。それは宇宙誕生から5億年の時点である。現在までにおおよそ10のこのような初期の物体が知られている。
2011126日、ハッブル宇宙望遠鏡が2009年~2010年に撮影した「ハッブル・ウルトラ・ディープフィールド」に、最も遠い天体である「UDFj-39546284」を発見した。1323800万光年先にあるこの天体は銀河であると考えられている。
核宇宙年代学(Nucleocosmochronology)によると、銀河系(天の川)の円盤は83±18億年前に形成したと推定されている。
-銀河群、銀河団、超銀河団の形成
重力相互作用は銀河を互いに引き寄せ、銀河群、銀河団、超銀河団を形成する。
-太陽系の形成
これらの出来事の後、太陽系は誕生する。太陽は、第一世代の恒星による生成物のかけらの集まった第二世代の恒星である。太陽系の形成は約50億年前、つまり宇宙誕生から80億から90億年後である。
-宇宙誕生から138億年後
宇宙の年齢についての最新資料は、今日が宇宙誕生から137.72±0.59億年後であると推定している。宇宙の膨張は加速しており、超銀河団はこの宇宙で形成される最大の構造であると考えられている。現在の膨張はすべての構造が事象の地平面の彼方に去ることを防いでおり、また、重力による新たなる構造の形成を妨げている。加速膨張しているが、それが発見される前は、減速していると考えられていた。

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宇宙の年表 その4(終わり)
‐宇宙の最終段階
 宇宙の最終段階を知るには、最初期宇宙で生じることの推察の場合と同様に基礎物理を応用することとなる。以下に可能性の数例を挙げてみる。
‐熱的死: 10^18から10^25
宇宙の膨張が続けば最も可能性の高いと考えられているのが、熱的死と呼ばれる状態である。 10^12年という時間尺では現存する恒星は燃え尽き宇宙は暗くなる。宇宙はエントロピーの高い状態に近づく。熱的死以降の時代は銀河はブラックホールに崩壊し、またブラックホールはホーキング放射を通じて蒸散する。ある大統一理論では、陽子欠損は残りの星間ガスを陽電子と電子に変換し光子の再結合が生じる。この場合、宇宙は際限なくただ一様な放射がある容器として存在し、また次第に低いエネルギーへと赤方偏移してその放射も冷えきってしまう。
‐ビッグクランチ: 10^27
ダークエネルギーのエネルギー密度が負であるかあるいは宇宙の時空の曲率が正で開いた宇宙であるならば、宇宙の膨張はいずれ反転し宇宙は高温高密度な状態に向かって収縮する。これはビッグバンへの逆戻りに似ている。これはしばしばサイクリック宇宙論(Cyclic model)といった振動宇宙(oscillatory universe)のシナリオの一部をなしている。現在の観測によると、この模型は正しくはなく、また宇宙の膨張は継続している。
‐ビッグリップ
このシナリオは、ダークエネルギーのエネルギー密度が時間的な制限なしに増加する場合に限り見込まれる。そのようなダークエネルギーは幽霊エネルギー(phantom energy)と呼ばれ、今まで知られている(仮想粒子のエネルギーをのぞく)どのエネルギーとも似つかぬものである。この場合、宇宙の膨張速度は制限なく加速する。銀河団、銀河、あるいは太陽系といった重力束縛系は引き裂かれる。膨張は、最終的には分子や原子を維持する電磁力を振り切る。そして原子核は引き裂かれ、宇宙は重力の特異点(gravitational singularity)の例外として終わりを迎える。言葉をかえれば、宇宙は膨張し続けるあまり4つの基本相互作用をとりこみすべての物質を引き裂く。
‐真空準安定事象
宇宙が寿命の長い偽の真空(False vacuum)であるなら、宇宙はトンネル効果により低エネルギーの状態になる可能性がある。そのようなことになればすべての構造はたちどころに崩壊する。
 

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宇宙の終焉 その1

宇宙の終焉(Ultimatefate of the universe)とは、宇宙物理学における、宇宙の進化の最終段階についての議論である。さまざまな科学理論により、さまざまな終焉が描かれており、存続期間も有限、無限の両方が提示されている。

宇宙はビッグバンから始まったという仮説は、多くの科学者により合意を獲得している。宇宙の終焉は、宇宙の質量 / エネルギー、宇宙の平均密度、宇宙の膨張率といった物理的性質に依存している。
・宇宙の終焉に関するいくつかの理論
20世紀初めまで、宇宙に関する科学的描像の主流は「宇宙は永遠に変化をしないまま存在し続ける」というものであった。このような宇宙モデルは現在では定常宇宙論として知られている。しかし1920年代にハッブルが宇宙の膨張を発見したことで、宇宙の始まりと終わりが科学的研究の重要な対象となった。
宇宙の始まりはビッグバンと広く呼ばれている。宇宙の終焉に関する理論は大まかに3つのグループに分けられる。
終焉はない
現在の観測結果にも拘らず、宇宙はかつて信じられていたように永遠のものである。
定常宇宙論
一時的事象として終焉を迎える
ビッグバンの前にはビッグクランチがあった。宇宙は将来再びビッグクランチを迎え、続くビッグバンで再び膨張する。このような振動が永遠に続く。

振動宇宙論 (Oscillatoryuniverse)

サイクリック宇宙論
永久的な事象として終焉を迎える
宇宙自体に終焉はないが、宇宙内部の存在全てが一様な平衡状態に達する。
宇宙の熱的死

ビッグリップ(Big Rip)

宇宙の低温死 (Big Freeze /Big Chill / Cold Death)

ある時点で重力が宇宙膨張に打ち勝ち、宇宙は収縮に転じて一点に潰れる。
ビッグクランチ
現代の理論は全て、宇宙論的推測を行うための共通の背景を与えている一般相対性理論を受け入れなくてはならない。上記の理論のほとんどは一般相対論の方程式の解であり、宇宙の平均密度や宇宙定数の値といったパラメータのみが異なっている。
初めの2つのグループについてはここでは論じない。宇宙の終焉そのものを否定しているからである。これらの理論では、何らかの意味のある活動がこの宇宙で永遠に続き得るとされる。以下ではこれら以外の可能性について議論する。
2種類の終焉
曲率0か負の開いた宇宙と、曲率正の閉じた宇宙かで、宇宙がどう終焉するかは大きく変わる。
-開いた宇宙の熱的死

開いた宇宙は、わずかに減速しながらも永遠に膨張を続け、熱的死を迎える。宇宙内部の環境は、我々が知っているような生命が存在できない状態にある時点で落ち着くと考えられる。このような宇宙で非常に長い時間スケールで起こると考えられる様々な事象については、1E19 s 以上を参照のこと。

このような宇宙モデルの下で遠い将来に起こる現象を時系列順に正確に推定することは非常に難しいが、定性的にはおよそ以下のような現象が起こると考えられる。
-星形成の停止
現在の宇宙では、通常の物質(バリオン)の大部分は天体、特に恒星と星間ガスの形で存在している。恒星は時間とともに進化し、軽い星は白色矮星として一生を終える。重い星は進化途中での質量放出や超新星爆発によって物質の大半を星間ガスに戻し、質量の一部が中性子星やブラックホールとなる。星間ガスの高密度の部分が収縮すると再び恒星が生まれる。このようにしてバリオンはリサイクルされているが、恒星の進化サイクルごとにある割合の質量が白色矮星や中性子星、ブラックホールといったコンパクト天体として固定されるため、長い時間が経つと宇宙全体でリサイクル可能なバリオンの量は少しずつ減っていき、やがて星間ガスは尽きて新たな星形成は起こらなくなると考えられる。一説によると、このような状態になるまでの時間はおよそ1014年程度と見積もられている。
星形成が起こらなくなると、宇宙には可視光を放つ天体は次第に減っていき、やがては冷却途中のコンパクト天体の余熱が赤外線や電波で見えるだけになる。

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宇宙の終焉 その2(終わり)
・ブラックホールの成長
質量が太陽の8倍程度よりも重い恒星は超新星爆発を起こす。太陽の20倍程度よりも重い恒星では超新星爆発の後にブラックホールが生まれると考えられている。一つの銀河の中で起こる超新星爆発はおよそ100年に1回程度の割合であるため、ごく大雑把な見積もりでは一つの銀河の中に現在約108個程度の恒星質量クラスのブラックホールが存在することになる。また、1990年代以降の観測によって、多くの銀河の中心には106-8太陽質量という大質量ブラックホールも存在することが明らかになっている。
ブラックホールは周囲の物質を呑み込んで成長していく。また、銀河のような自己重力多体系の中では動力学的摩擦と呼ばれる過程で質量の大きな天体が系の中心に沈んでいく傾向にある。このようにしてブラックホールは成長しながら銀河中心に向かって集まり、互いに合体してさらに成長するといった過程が考えられる。このようにして、やがては銀河中心の大質量ブラックホールが銀河全体の質量を全て呑み込むことになる。このような状態に至るまでの時間はおよそ1030年程度と見積もられている。
物質を呑み込んで成長しているブラックホールは周囲に降着円盤を形成する。降着円盤はX線やγ線を放射するため、この時代の宇宙にはこのようなX線源・γ線源のみが見えるようになる。
宇宙全体には銀河同士が集まった銀河団や、銀河団同士がさらに重力的に引き合ってフィラメント状に連なった大規模構造と呼ばれる構造も存在する。この階層的構造のうち、宇宙膨張から切り離されて力学的平衡状態に達しているのは銀河団までである。従って、銀河質量クラスの超巨大ブラックホール同士が自己重力でさらに集合したとしても、1個に合体できるのは銀河団質量までであり、それより大きな構造についてはブラックホールが合体するより宇宙膨張によって離れる速度の方が速いと考えられる。よって、このようなブラックホールの成長過程はブラックホールが銀河〜銀河団程度の質量になった時点で止まり、これ以降はこのような超巨大ブラックホールが宇宙に散在した状態で、互いに宇宙膨張で離れていくことになる。(やがてその速度は光速を超え、お互いを見ることができなくなる。)
・ブラックホールの蒸発
ブラックホールは物質や光を吸い込むと同時に、その質量に応じた温度で熱放射を行って蒸発する。これをホーキング放射と呼ぶ。ブラックホールの温度が外界よりも低い場合には外界の放射を吸収して成長し、ブラックホールの温度が外界よりも高い場合には放射を出して蒸発する。現在の宇宙の温度(宇宙マイクロ波背景放射の温度)は約2.7Kであり、この温度で蒸発できるブラックホールは月の質量程度より軽いブラックホールに限られるが、宇宙が膨張して宇宙背景放射の温度が60nKまで下がると恒星質量程度のブラックホールも蒸発するようになる。さらに10-19K程度にまで宇宙の温度が下がると、銀河質量クラスの大質量ブラックホールも蒸発を始める。宇宙背景放射の絶対温度は宇宙のスケール因子に反比例するので、宇宙がこの温度に達するのは宇宙が現在の 1019 倍の大きさまで膨張した時点である。
このような巨大ブラックホールの蒸発が始まる時刻は、以下のように推定されている。現在最も有力な宇宙モデルでは、現在の宇宙は宇宙定数が優勢な加速膨張期にあると考えられている。このような加速膨張時代には、時刻 t での宇宙のスケール因子は以下の式に従う。
ここで:宇宙定数の密度パラメータ ( ):ハッブル定数 ( )
この式より、宇宙のサイズが今の1019倍になるのは約7300億年後と見積もることができる。従って銀河質量クラスの巨大ブラックホールが形成される頃には、宇宙はこのような巨大ブラックホールでも蒸発できるほど十分低温になっている。
ブラックホールの蒸発が始まってから全て蒸発し尽されるまでには長い時間がかかる。太陽質量程度のブラックホールの蒸発時間は約1067年である。蒸発時間はブラックホールの質量の3乗に比例するため、銀河質量クラスのブラックホールが蒸発し尽くされるには約10100年かかる。
・放射のみの宇宙
ブラックホールが全て蒸発した後には、宇宙背景放射の光子とブラックホールの蒸発で生まれた光子だけが宇宙を満たした状態になる。この時代の宇宙は絶対零度に限りなく近いため、光子のエネルギーは非常に低い。よってこれらの光子から再び物質粒子が生成されることはあり得ず、放射のみが存在する宇宙が指数関数的に膨張していき、絶対零度に向かって永遠に冷却し続けることになる。
この極低温の状態はビッグフリーズ (Big Freeze) やビッグチル (Big Chill) などと呼ばれている。これは19世紀に考えられていたエントロピー増大の過程とは別の物理過程の結果生じるものであり、いわゆる熱的死とは別の状態である。
・陽子崩壊
上記の見積もりでは陽子崩壊の影響を考えていないが、大統一理論が正しければバリオンの多くを占める陽子が崩壊することが予想されている。ただし、その場合でも陽子の寿命は現在の推定では少なくとも1033年以上とされている。よって上記のシナリオが正しければ、陽子が崩壊する前にほとんどのバリオンは大質量ブラックホールに吸収されてしまうことになる。
・閉じた宇宙のビッグクランチ
閉じた宇宙は、膨張が減速しやがて収縮に転じ、ビッグバンの時間逆転であるビッグクランチを迎える。
・近年の宇宙論による影響
-インフレーション宇宙論
インフレーション宇宙論によると、インフレーション前の曲率がどうであれ、インフレーション後の曲率は「ほぼ」0である、つまり宇宙はほぼ平坦である。平坦な宇宙は開いているので、宇宙は熱的死を迎えると予想される。
ただし、インフレーション宇宙論は、曲率が「完全に」0であることを保障しない。曲率がわずかでも正だった場合、熱的死を迎えた宇宙は非常に長い時間の後に収縮に転じ、同じくらい長い時間の後にビッグクランチを迎える可能性がある。
-ダークマターの発見
従来の観測事実からは、宇宙の密度は宇宙を平坦にするには足りないと考えられてきた。そのため、インフレーション宇宙が予想する「平坦な宇宙」は観測による支持を受けていなかった。
しかしダークマターの間接的な観測結果が積み重ねられた結果、宇宙の密度の推定値は大きく増え、「平坦な宇宙」に観測による裏づけがつくようになった。
-加速膨張の発見
ここまでの議論は、宇宙定数が0と仮定してきた。しかしWMAPなどの観測により、正の宇宙定数が宇宙膨張を加速している可能性が出てきた。
2003年、「宇宙は全ての物理的構造がバラバラになってしまうビッグリップ (big rip) によって終焉する」という論文が Robert R. CaldwellMarc KamionkowskiNevin N. Weinberg によって Physical Review Letters 誌に掲載された。この仮説では宇宙定数が時間の増加関数になっているため、宇宙の膨張は通常のド・ジッター宇宙的加速膨張以上のペースで加速される。この強力な加速膨張により、宇宙膨張と切り離されて現在安定に存在している銀河や人間、バクテリア、砂粒に至るありとあらゆる物理的構造がいずれ素粒子にまでバラバラになってしまう。かくして宇宙は、永遠に加速しながらお互いから遠ざかる素粒子だけになってしまうと主張している。
しかし現在のところ、宇宙定数が時間の定数なのか、時間とともに変化するのかはまだ明らかになっていない。
 

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サイクリック宇宙論
 サイクリック宇宙論 (cyclic universe theory)は、宇宙は無限の自律的な循環に従うとする宇宙論である。例えば、1930年にアルバート・アインシュタインが簡潔に考えを示した振動宇宙論 (oscillatory universe theory) は、ビッグバンによって始まりビッグクランチによって終わる振動が永遠に連続する宇宙を理論化した。ビッグバンとビッグクランチの間、宇宙は膨張してゆき、その後、物質の重力による引力によって再び収縮し崩壊して、ビッグバウンス(大きな反発)が起こる。
・概要
1930年代、理論物理学者、とりわけアルバート・アインシュタインは、膨張宇宙モデルに代わる(永続的な)サイクリック宇宙モデル(循環宇宙モデル)の可能性を考察していた。しかし、1934年にリチャード・トルマンは、サイクリック宇宙モデルの初期の試みは熱力学第二法則に従ってエントロピーは常に増大するというエントロピー問題のため失敗していることを示した。トルマンの成果は、宇宙の連続するサイクルは次第に長く大きくなっていくことを示唆した。外挿によって時間を遡っていくと、現在の宇宙より前の宇宙は、そのサイクルはより短く、大きさはより小さくなっていく。このことは理論的に困難な状況として何十年も解決されずにいたが、21世紀初期に暗黒エネルギー成分の発見を契機に、論理的整合性を持つサイクリック宇宙論が提唱された。
新しいサイクリック宇宙モデルの一つは、初期のエキピロティック宇宙論モデルから派生した宇宙の創成のブレーン宇宙論モデルである。これは2001年にプリンストン大学のPaul Steinhardtおよびケンブリッジ大学のNeil Turokによって提唱された。その理論は、一度のみならず何度も繰り返し存在する宇宙を記述している。その理論は、宇宙定数として知られる宇宙の膨張を加速しているエネルギーの不思議な反発的性質はなぜ標準的なビッグバンモデルによって予測されているよりも小さいオーダーの大きさであるのかを潜在的に説明する。
これとは異なるファントムエネルギーの概念に基づくサイクリック宇宙モデルが2007年にノースカロライナ大学チャペルヒル校のLauris BaumおよびPaul Framptonによって提唱された
Steinhardt–Turokモデル
このサイクリック宇宙モデルでは、2つの平行なオービフォールド平面またはM-ブレーンはより高次元の空間の中で周期的に衝突する。われわれに可視的な四次元宇宙はこれらのブレーンの内の一つに横たわっている。その衝突は、収縮から膨張への反転または直後にビッグバンが続いて起こるビッグクランチに対応する。今日われわれが見る物質および放射は、ブレーンの前に作られた量子ゆらぎによって決定付けられたパターン中での直近の衝突の間に発生したことになる。最終的に宇宙は今日われわれが観測している状態に到達し、何億年も先の未来に再び収縮を開始する。暗黒エネルギーはブレーン間の力に対応し、磁気単極子問題、地平線問題および平坦性問題を解決する決定的な役割を担う。そして、このサイクルは過去と未来が無限に連なる。その解はアトラクターであり、宇宙の完全な歴史の情報を含んでいる。
リチャード・トルマンが示したように、初期のサイクリック宇宙モデルは宇宙が不可避の熱力学的な熱的死を経験するということから破綻していた]。しかし、新しいサイクリック宇宙モデルは膨張していくサイクルを持ちエントロピーが増大するのを妨げることによってこの問題を回避している。しかしながら、このモデルには主要な問題が存在する。とりわけ、衝突するブレーンは弦理論学者によって理解されていない。また、スケール不変スペクトルがビッグクランチによって破壊されるかどうかは誰も知らない。さらに、宇宙のインフレーションのように真空のゆらぎを生成するために必要な力の一般的な特性(エキピロティック宇宙論のシナリオではブレーン間の力)が知られている一方で、その力に関する素粒子物理学からの候補はない。
Baum–Framptonモデル
2007年のこの新しいサイクリック宇宙モデルは、パラメータwを通して、圧力と密度に関わる暗黒エネルギーの状態の方程式に関して新規の技術的な仮定を設定する。それは、現在を含む宇宙のサイクルの中で、常にw < −1(ファントムエネルギーと呼ばれる条件)であることを仮定する。(対照的に、Steinhardt–Turokw −1を仮定している。)Baum–Framptonモデルでは、ビッグリップの10-24秒以前に宇宙の反転が起こり、結果的に1つの区画だけがわれわれの宇宙として保持されたとする。この宇宙の区画はクォーク、レプトンまたはゲージ粒子を含まず、暗黒エネルギーだけを含む。それゆえ、そのエトロピーは0になる。この非常に小さい宇宙の収縮の断熱過程では、エントロピーは常にゼロで、宇宙の反転の前に崩壊するブラックホールなどの物質は存在しない。宇宙が無に還るというアイデアはこのサイクリック宇宙モデルの中心の新しいもので、QCD相転移や電弱対称性の回復などの相転移の問題と同様に、過剰な宇宙の構造形成やブラックホールの拡散や膨張のような収縮期における問題に直面する多くの困難を避けることができる。これらの問題は、熱力学第二法則の破れを単純に避けるために、望んでいない反発力を生成する傾向が強く見られる。この画期的なw < −1の条件は、真に無限循環のサイクリック宇宙論にとって、エントロピー問題のために論理的に必須であろう。それでもなお、さらに多くの技術的に支援する計算がそのアプローチの一貫性を保証するために必要である。このモデルは弦理論からアイデアを借りているが、弦や多次元を導入する必要はない。ただし、そのような思索は理論の内部整合性を調査する最も迅速な方法を与えるであろう。Baum–Framptonモデルのwの値は任意に−1に近付けることができるが、それよりは小さくないといけない。
 

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多元宇宙論 その1
多元宇宙論(Multiverse)とは、複数の宇宙の存在を仮定する仮説である。
・概要
多元宇宙 (multiverse, meta-universe or metaverse) は、仮説として可能性のある複数の宇宙の集合である。多元宇宙はすべての存在を含む。これは、われわれが一貫して経験している歴史的な宇宙に加え、空間、時間、物質、およびエネルギーの全体、そして、それらを記述する物理法則および物理定数なども含まれる。この語は1895年にアメリカの哲学者で心理学者のWilliam Jamesによって造られた。多元宇宙が含むそれぞれの宇宙は、平行宇宙 (parallel universes) と呼ばれることもある。
多元宇宙の構造、そこに含まれるそれぞれの宇宙の性質、およびそれら宇宙の間の関係は、考えている特定の多元宇宙仮説に依存する。宇宙が一つでないと考える理由(多元宇宙が存在する意味)は仮説によってさまざまである。宇宙論、物理学、天文学、宗教、哲学、トランスパーソナル心理学およびフィクション、特にサイエンスフィクションとファンタジーにおいて、多元宇宙の仮説が立てられてきた。これらの文脈では、平行宇宙は"代替宇宙" (alternative universes)"量子宇宙" (quantum universes)"相互浸透次元" (interpenetrating dimensions)"平行次元" (parallel dimensions)"平行世界" (parallel worlds)"代替現実" (alternative realities)、および"代替時系列"(alternative timelines) などと呼ばれることもある。
・単に距離によるもの
現在の宇宙論がインフレーションを想定する限り、観測可能な宇宙以上の空間を必然的に内包する。
つまり同一のビッグバンから生まれた領域内に、決して物理的に干渉、観測できない領域を複数選ぶことができる。物理的に干渉できないのだからこれは一種の別の宇宙であり、平行宇宙である。ただし基本的には超遠方であるだけであって、基本的な物理法則、物理定数、および素粒子の種類は合致すると考えられる。
・複数の泡によるもの
ある種の物理理論によると、インフレーションの過程で複数の泡が出来てしまってもよい。上記の多元宇宙はここでいうところの泡の中で別の場所という話にすぎず物理定数と素粒子の共通性があるが、この場合別の泡では物理定数と素粒子が異なってもよい。
・多世界解釈
量子力学の解釈の1つで波動関数の収縮を想定せず、すべての解に対応した世界があるとするもの。
・多次元によるもの
我々が住む宇宙は無限ないし多くの次元を持つバルク(空間)に浮かぶたったの三次元のブレイン(膜)であるとするもの。当然、バルク内に複数のブレインがあることが許容される。
・万物理論の自由性によるもの
それが最終的にどんな形をとるのかは別として、万物理論に何らかの物理定数が含まれる場合、即座に他の値ではいけなかったのか?という疑問が生ずる。一番簡単な説明は有りうる値すべての宇宙が実在し、たまたま我々の宇宙ではその値であり、そうでなければ我々は生まれなかった、という人間原理によるものである。

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多元宇宙論 その2
・物理学における多元宇宙仮説
-テグマークの分類
宇宙学者のマックス・テグマークは、よく知られた観測可能な宇宙を越えた宇宙の分類学を作った。テグマークの分類によるレベルは、上位になるほど拡張された概念となり、下位のレベルの宇宙を包含する。
レベル I: われわれの宇宙の地平面の向こう
カオス的インフレーション理論は、無限のエルゴード的な宇宙を一般的に予測する。この宇宙は、無限であり、すべての初期条件を実現するハッブル体積を含むはずである。
従って、無限の宇宙は無限の数のハッブル体積を含むことになる。これらすべては同じ物理法則および物理定数を持つが、物質の分布のような配置に関しては、ほとんどはわれわれのハッブル体積から異なることになる。しかしながら、無限に多くのハッブル体積が存在するため、宇宙の地平線を越えて、結果的に類似するかまたは同じですらある配置のハッブル体積が存在しうる。テグマークは、われわれの住むハッブル体積と同じ配置のものはおよそ1010115(グーゴルプレックスより大きい数)m離れていると算定する。この推定はハッブル体積状態の一様な分布を仮定しているように見えるが、実際はどんな分布でも可能であるだろう。これは、われわれの特定のハッブル体積は事実上、唯一のものであろうことを意味する。
レベル II: 異なる物理定数の宇宙
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"泡宇宙"、各円盤は泡宇宙である。宇宙1 から宇宙6 は異なる泡で、それぞれ異なる物理定数を持つ。われわれの宇宙はその泡の一つである。
宇宙のインフレーション理論の変形であるカオス的インフレーション理論では、多元宇宙は全体として拡張しており、その拡張は永遠に続くとされる。しかし、宇宙のある領域は拡張を止め、それぞれ異なる泡の形態を取る。そのような泡は未発達のレベルI 多次元宇宙である。アンドレイ・リンデおよびVitaly Vanchurinは、これらの宇宙の数が101010000000のスケールであると計算した。
異なる泡は異なる自発的対称性の破れを経験するであろう。その結果、異なる物理定数のような異なる性質を持つ。
このレベルはまた、ジョン・ホイーラーの振動宇宙論およびリー・スモーリンの多産宇宙論を含む。
レベル III: 量子力学における多世界解釈
ヒュー・エヴェレットの多世界解釈 (MWI) は、量子力学の解釈のいくつかある主流の一つである。量子力学の一つの側面として、ある観測は絶対的に予測することができないというものがある。代わりに、異なる確率を持つ起こりうる観測の幅がある。MWIによると、これらの起こりうるそれぞれの観測は異なる宇宙に対応する。6面のさいころが振られたとすると、その各結果が量子力学の可観測量に一致する。さいころは、すべての6通りの可能性に対応する6つの異なる宇宙に落ち込む。(より正確には、MWIでは単一宇宙のみが存在するが、"多世界" "分裂"してからはそれらは一般的に相互作用することができない)
テグマークは、レベルIII 多元宇宙はハッブル体積内にレベルI-II 多元宇宙よりも多くの確率を含まないと議論する。事実上、同じ物理定数を持つレベルIII 多元宇宙において"分裂"によって創られたすべての異なる"世界"は、レベルI 多元宇宙におけるいくつかのハッブル体積の中に見つけることができる。テグマークは次のように述べている。レベルI およびレベルIII の唯一の違いは、どこにあなたのドッペルゲンガーが住んでいるのかの違いである。レベルI では、それらは三次元空間内のあらゆるところに住んでいる。レベルIII では、それらは無限次元ヒルベルト空間における他の量子的に分岐した世界に住んでいる。同様に、異なる物理定数を持つすべてのレベルII 泡宇宙は、事実上、レベルIII 多元宇宙における自発的対称性の破れの瞬間に"分裂"によって創られた"世界"として見出すことができる。
多世界のアイデアに関連するものは、リチャード・ファインマンの複数の歴史解釈およびH. Dieter Zehの多精神解釈がある。
レベル IV: 究極集合
究極集合仮説はテグマーク自身により提唱された。このレベルは、異なる数学的構造によって記述可能な宇宙はすべて等しく実在すると考える。これには、我々の観測可能な宇宙のものではない異なる低エネルギー物理法則を含まない。テグマークは次のような考えを提唱する。抽象数学は非常に一般的なので、(人間の曖昧な言葉から独立した)どんな純粋な形式言語で定義可能な万物の理論 (TOE) もまた数学的構造である。例えば、異なる種類の実体(言葉で表現される)やそれらの関係(さらなる言葉で表現される)を含むTOEは数学者が集合論的モデルと呼ぶものに他ならず、一般的にその集合論的モデルを構成する形式体系を見出すことができる。これは、あらゆる想像することのできる平行宇宙理論はレベルIVの段階で記述可能であることを暗示する。レベルIV 多元宇宙は全ての他の集合 (ensembles) を包含するので、多元宇宙の階層の上限となり、レベルV 多次元宇宙を考える余地はない。
Jürgen Schmidhuberは、しかしながら、"数学的構造の集合"は明確に定義されてすらいないと反論する。彼は、構成的数学、すなわちコンピュータプログラムによって記述可能な宇宙の表現のみ認めている。これには、その出力ビットは有限時間内に収束するが収束時間自身はクルト・ゲーデルの限界のため停止するプログラムによって予測できないであろう非停止プログラムによって記述可能な宇宙の表現が明示的に含まれている。彼はまた、より制限の厳しい手早く計算可能な宇宙の集合を明確に議論している。
 

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多元宇宙論 その3(終わり)
-サイクリック宇宙論
いくつかの理論では、宇宙は無限に連続する自立的な循環を行う(ビッグバンビッグクランチの永遠の循環など)。
M理論
上述の多元宇宙とは少し異なるものが、M理論 (Membrane Theory) として知られる弦理論の多次元拡張理論において構想されている。M理論において、われわれの宇宙およびその他の宇宙は11次元および26次元空間内における(次元数は観測者のカイラリティに依存する)pブレーン同士の衝突によって創られる。そして、各宇宙はDブレーンの形態を取る。各宇宙にある物体はそれらの宇宙のDブレーンに本質的に閉じ込められているが、おそらくDブレーンに制限されていない力である重力を通して他の宇宙と相互作用しうる。これは"量子宇宙"における宇宙とは異なっているが、これらの概念はどちらもともに機能する。
-人間原理
他の宇宙の存在という概念は、なぜわれわれの宇宙はわれわれが経験しているように意識を持つ生命が存在するのか、なぜ物理定数がそのように微調整されているように見えるのかを説明するために提案されてきた。もし多数(場合によっては無限大)の物理法則または基本定数に対応する宇宙が存在するならば、これらのいくつかは星や惑星、そして生命が存在するのに適した物理法則を持つであろう。弱い人間原理はそのとき、われわれが意識を持つのは、意識を持つ存在のために微調整された宇宙にわれわれが存在しているためであるという結論を導く。このように、宇宙の多くには生命が存在する確率は極端に小さいが、生命を保持する宇宙が稀であることは、われわれような意識的存在を説明する理由として、インテリジェント・デザイン説を暗示しない。
・批判
-非科学的主張
これらの理論の多くは、実験による検証可能性を欠いているという批判がある。そして、反証不可能である強固な物理的証拠を欠いており、確証または反証するための科学的調査の方法論の外にある。多くの多元宇宙理論の主張が実験的証拠や検証可能性を欠いている理由は、他の宇宙が異なる時空の枠組みにあると仮定されるためである。そのため原理的にそれらは観測することができないはずである。
-間接的証拠
現代科学の論理的な基礎は仮説演繹法の論理である。これは、理論による未観測の実在を提案することを認めている。もし観測可能な結果を説明するのに役立つのであれば、(将来の観測の)予測または(過去に起こった観測の)レトロダクションに基づいた理論を用いることができる。
-オッカムの剃刀
われわれの宇宙を説明するだけのために未観測の宇宙が無限に存在するという仮説を立てることは、オッカムの剃刀に反しているように見えるという批判がある。
テグマークの回答:
懐疑主義者は、これらの観測されていない世界をそれぞれ特定する必要があるあらゆる情報について心配する。しかし、全体の集合はその要素の一つよりも実際は非常に単純である。この原理はアルゴリズム情報理論の文脈の観念を用いてより形式的に語ることができる。ある数に含まれるアルゴリズム情報量は、大まかに言って、その数を出力として生成する最も短いコンピュータプログラムの長さである。例えば、すべての整数の集合を考える。このとき、すべての集合とただ一つの数ではどちらがより単純だろうか?素朴にも、あなたは単一の数がより単純だと考えるだろう。しかし、全集合は非常に短いコンピュータプログラムによって生成することができる反面、単一の数は非常に長いプログラムを必要とする。それゆえ、全集合は実質より単純である。同様に、アインシュタイン方程式のすべての解の集合は特定の解よりもより単純である。前者は少数の方程式で記述されるが、後者はある超曲面上の膨大な初期データの詳細情報を必要とする。この教えるところは、集合の中の特定の要素に注意を絞ると複雑性は増すため、すべての要素の全体性の中に本来備わっている対称性および単純性が失われるということである。この意味で、より高次のレベルの多元宇宙はより単純である。われわれの宇宙からレベル I 多元宇宙に進むと、特定の初期条件を必要としなくなる。レベルII の段階に上がると特定の物理定数を必要としなくなり、レベル IV 多元宇宙ではあらゆる特定の値を必要としなくなる。
4つの多元宇宙レベルすべての一般的な特徴は、最も単純でほぼ間違いなく最も洗練された理論は当初から平行宇宙を含むということである。これらの宇宙の存在を否定するには、実験的に支持されていない過程およびアドホックな仮定によって理論を複雑化する必要がある。例えば、有限空間、波動関数の崩壊および存在論的非対称性 (ontological asymmetry) などの仮定が必要となる。それゆえ、われわれの判断は、より無駄が多く洗練されていないとわれわれが考える多くの世界または多くの言葉へと到達する。おそらく、われわれの宇宙の超自然的な性質に徐々に慣れていき、その奇妙さがその魅力の一部分であることに気付くだろう。
・哲学および論理学における多元宇宙仮説
-様相実在論
可能世界は確率、仮説上の言説、それに同様のものを説明する一つの方法である。デイヴィド・ルイスなどいくらかの哲学者は、すべての可能世界は存在する、そして実際の世界と同様に現実である(様相実在論として知られる立場)と信じている。
-トランスワールド・アイデンティティ
あらゆる与えられた宇宙の無限の同一コピーを仮定する多元宇宙の枠組には、異なる可能世界に同一の物体が存在できるという観念の形而上学的な議論が生じる。デイヴィド・ルイスの対応者理論によると、異なる可能世界に存在するその物体はそれぞれ同一というよりも類似していると見なされるべきである。
-虚構実在論
虚構実在論では、創作が存在するということは、創作上のキャラクターも同様に存在する考える。ここでは哲学的な議論はともかく、人々や月曜日や数や惑星が存在するのと同じような意味で、創作上の実在が存在する。
 

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トンネル効果
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トンネル効果(Quantum tunneling)は、非常に微細な世界にある粒子が、古典的には乗り越えることができないポテンシャル(エネルギー)障壁を、量子効果すなわち、時間とエネルギーとの不確定性原理により乗り越えてしまう(透過してしまう)現象。量子トンネル効果ともいう。
1928年にジョージ・ガモフとガーニー=コンドンがそれぞれ独立に原子核におけるアルファ崩壊をトンネル効果により説明した。また、同年にはロバート・オッペンハイマーが電界イオン化について、ファウラー=ノルトハイムが電子の電界放出について、同様の説明を行っている。
・概要
高い壁の向こう側に、手に持っているボールを投げる場合を考える。普通であれば、その壁を越える高さまでボールを投げる事が必要になる。つまり、壁の高さに相当する位置エネルギーよりも大きな運動エネルギーを、ボールに与える必要がある。壁の高さに届くようにボールに運動エネルギーを与える事が不可能な場合、その壁は「古典的には乗り越えることができないポテンシャル障壁」となる。
しかし量子力学の世界においては、ボールを壁の高さまで投げる事ができないのに、ボールを壁の向うに投げる事ができてしまう。さながら壁にトンネルが生じて、そのトンネルを通ってボールが壁をすり抜けるようだという事で、これをトンネル効果という。
これは、粒子の波動関数がポテンシャル障壁の反対側まで染み出してしまう事による。量子力学では粒子は同時に波としても扱われる。波であれば、壁の向う側にも回折によって届くのである。壁の向こう側にボールを投げる事はできなくても、壁の向こう側に声を届かせる事はできる。これは声は音波という波だからである。だから粒子を波と見なせる場合、粒子もまた壁を越える事ができる。
だが、現実としては、壁の高さ以上に投げる事ができないボールを、壁の向こうに投げる事は不可能である。これはトンネル効果が、「ポテンシャル障壁を越えるのは何%」という確率で表されるものだからである。ボールが壁を越えるには、ボールを構成する何億、何兆という素粒子が、全てポテンシャル障壁を越える事が必要である。その確率はゼロでないにせよ、限りなくゼロに近い。
言葉を換えて説明すれば、ボールのようなマクロな物質を、ミクロな物質を扱う量子力学上の物質波として看做した場合、その物質波としての波長はそのボール自体の大きさよりも遥かに短い。つまりボールは、波としての性質が極めて小さく、つまり回折によって壁の向うに届く確率は、限りなくゼロに近い事になる。当然、人間が壁を越えることもありえない。
よって、我々が日常見る事のできる物については、トンネル効果は無視できる(巨視的トンネル効果という話題もある。詳細は該当項目参照)。しかしながら半導体や集積回路を流れる電流を扱う場合などにおいては、このトンネル効果が無視できない。よって、我々が日常使っている電化製品、電子機器もトンネル効果と深くかかわっており、そういった意味で我々の日常生活にも影響している。
トンネル効果の応用例としては、走査型トンネル顕微鏡(STM)や、電子デバイス(エサキダイオード、フラッシュメモリ、SEDなど)など、多数存在する。
逆に集積回路の微細化によるリーク電流増加の原因ともなる。
また、この宇宙の生成においても、トンネル効果は深くかかわっている。かいつまんで述べれば、無の状態から宇宙は誕生したのだが、その無から有の状態への移動はトンネル効果によってなされた。
 

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ビッグバン その1
ビッグバン (Big Bang) とは、
ビッグバン理論(ビッグバン仮説)、つまり「この宇宙には始まりがあって、爆発のように膨張して現在のようになった。」とする説である
同説において想定されている、宇宙の最初期の超高温度・超高密度の状態のことである。
・概要
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 ビッグバン理論では、宇宙は極端な高温高密度の状態で生まれた、とし(図下)、その後に空間自体が時間の経過とともに膨張し、銀河はそれに乗って互いに離れていった、としている(図中、図上)。
「ビッグバン」という語は、狭義では宇宙の(ハッブルの法則に従う)膨張が始まった時点を指す。その時刻は今から137億年(1.37 × 1010年)前と計算されている。より一般的な意味では、宇宙の起源や宇宙の膨張を説明し、またジョージ・ガモフの「α-β-γ理論」から予測される宇宙初期の元素合成によって現在の宇宙の物質組成が生まれたとする、現代的な宇宙論的パラダイムも指しうる。
この理論に「ビッグバン (Big Bang)」という名をつけることになったのは、皮肉にも、「宇宙に始まりがあった」という考えを非常に嫌悪していたフレッド・ホイルであり、あるラジオ番組において、ジョルジュ・ルメートルのモデルをthis 'big bang' idea(この大ボラ)」と愚弄するように呼んだのが始まりであるとされている。科学記者ジョン・ホーガンの取材によるとホイルは卑下する意味は微塵も無く、何か咄嗟に生き生きとした表現は無いものかと思いついたのが「ビッグ・バン」だったと気まずく述べており「命名者としてパテントを取得しておくべきだったよ」と悔やんでいる旨を明かしている。その名の通り爆発的に用語が一般認知、定着するが、それ以前の天文学者らの間ではフリードマン宇宙論として語られていた。
ビッグバン理論(ビッグバン仮説)に基づいたビッグバン・モデルでは、宇宙は時間と空間の区別がつかない一種の「無」の状態から忽然と誕生し、爆発的に膨張してきた、とされる。近年の観測値を根拠にした推定により、ビッグバンは約137億年前に起きたと推定されるようになった。
遠方の銀河がハッブルの法則に従って遠ざかっているという観測事実を、一般相対性理論を適用して解釈すれば、宇宙が膨張しているという結論が得られる。宇宙膨張を過去へと外挿すれば、宇宙の初期には全ての物質とエネルギーが一カ所に集まる高温度・高密度状態にあったことになる。この初期状態、またはこの状態からの爆発的膨張をビッグバンという。
この高温・高密度の状態よりさらに以前については、一般相対性理論によれば重力的特異点になるが、物理学者たちの間でこの時点の宇宙に何が起きたかについては広く合意されているモデルはない。
20世紀前半でも、天文学者も含めて人々は宇宙は不変で定常的だと考えていた。ハッブルの観測によって得られたデータが登場しても科学者たちも真剣にそれを扱おうともせず、ごくわずかな人数のアウトサイダー的な天文学者・科学者がビッグバン仮説を発展させたものの、無視されたり軽視されたりしてなかなか受け入れられなかった。ビッグバン理論から導かれる帰結の1つとして、今日の宇宙の状態は過去あるいは未来の宇宙とは異なる、というものがある。このモデルに基づいて、1948年にジョージ・ガモフは宇宙マイクロ波背景放射 (CMB) が存在することを主張、その温度を5Kと推定した。CMB 1960年代になって発見され、この事実が、当時最も重要な対立仮説(対立理論)であった定常宇宙論ではなくビッグバン理論を支持する証拠と受け止められ、支持する人が増え多数派になり、「標準理論」を構成するようになった。この説が生まれてから数十年の時を経て、ようやくそうなったのである。
 

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ビッグバン その2
・歴史
20世紀初頭では天文学者も含めてほとんどの人々は宇宙は定常的なものだと考えていた。「宇宙には始まりがなければならない」などという考えを口にするような天文学者は皆無だった。ハッブルも、柔軟な考えを持っていると評価されているアインシュタインですらも、「宇宙に始まりがあった」などという考えはまるっきり馬鹿げていていると思っていた。科学者たちは膨張宇宙論は科学では理解しがたく、宗教上の立場だと見なしていた。
ビッグバン理論は、紆余曲折を経て、観測と理論の両面が揃ってようやく、徐々に認められるようになってきた歴史がある。
観測的には、多くの渦巻星雲が地球から遠ざかっていることが知られていたが、当初これらの観測を行った研究者たちはその宇宙論的な意味に気づかず、これらの星雲が実際に我々の天の川銀河の外にある銀河であるということが分からない状況にいた。
 
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ジョルジュ・ルメートルは、「宇宙は原始的原子(primeval atom) 爆発から始まった」というモデルを提唱した。
1927年にベルギーの司祭で天文学者のジョルジュ・ルメートルが一般相対論のフリードマン・ロバートソン・ウォーカー計量に従う方程式を独自に導き出し、渦巻銀河が後退しているという観測結果に基づいて、「宇宙は原始的原子(primeval atom) 爆発から始まった」というモデルを提唱した。
1929年、エドウィン・ハッブルの観測で、彼は銀河が地球に対してあらゆる方向に遠ざかっており、その速度は地球から各銀河までの距離に比例していることを発見した(この事実は現在「ハッブルの法則」と呼ばれている。これが、ルメートルの「原始的原子(primeval atom) 爆発から始まった」とする理論に対して基礎付けを与えることになった。) 
この時点でこの問題(ハッブルの観測結果を説明すること)に本気で立ち向かい科学的にとらえようという気になっている科学者は皆無だった。
その数少ない例外がロシア出身の天文・核物理学者ジョージ・ガモフであり、ジョルジュ・ルメートルが提唱したビッグバン理論を支持し発展させた。ガモフは、初期の宇宙は全てが圧縮され高密度だったうえに、超高温度だったとし、宇宙の膨張の始まりを、熱核爆弾の火の玉と捉え、創造の材料(陽子、中性子、電子、ガンマ放射線の高密度ガス。これらの材料をガモフは「イーレム」と呼んだ)が爆発の場で連鎖的に起きる核反応によって、現在の宇宙に見られる様々な元素に転移したのだ、と説明した。1940年代、ガモフとその共同研究者たちは、熱核反応によって創世が起きたとする説明の細部を詳細に描く論文をいくつも執筆した。だが、この説明図式がうまくゆかなかった。原子核のなかには非常に不安定なものがあり、再融合する前にバラバラになり、彼が求めていた、元素へと組成する連鎖が途中で途切れてしまうのだった。ガモフたちの研究や論文は無視され軽視されたままになり、研究チームは1940年代末に解散してしまい、チームメンバーでは科学を捨てる者もいた。ガモフも引退することになった。ただ、ガモフは大衆向けに科学や宇宙論の本を書いたりし、次世代に影響は与えた。
ハッブルの観測結果を説明するもうひとつの方法は、従来通りに「宇宙に始まりなどなく、定常である」とする説を採用することである。フレッド・ホイルは「宇宙に始まりがあった」という考えをとことん嫌い抜いていた。ホイルが1948年に出したモデルは「定常モデル」と呼ばれる。このモデルでは銀河が互いに遠ざかるに従って、あとに残った空間に新しい物質が現れ出て、それが固まることで新たな銀河を形成してゆくとし、これにより宇宙の物質密度が一定に保たれるとした。このモデルでは大まかに言えば、宇宙はいつでも同じように見えることになる。これは「宇宙は永遠で無限だから偉大なのだ」と考える科学者たちの心をつかんだ。おまけにホイルの説はビッグバン説よりエレガントだった。物理学者らはエレガント好きなのでそれを好んだ。ハッブルまで定常説が自然だと見なした。ルメートルの理論にビッグバン (Big Bang) という名前を付けたのはホイルで、1949年のBBC のラジオ番組 The Nature of Things の中で彼がルメートルのモデルを"this 'big bang' idea" とからかうように呼んだのが始まりであるとされている。ところでホイルは、定常モデルであってもライバルのビッグバン・モデルと同様に炭素・酸素・金・鉄・窒素・ウラン・鉛などの化学元素の起源を説明しなければならない、という問題に気づいた。ホイルは、時間の始まりに一発のビッグバンがあってそれが核反応炉の役割を果たしたとしなくても元素が創生されたと説明がつくことを示したくて、「星ではありとあらゆる核種変換が起こっている」と提唱した。そのため1953年にはカリフォルニア工科大学ケロッグ放射線研究所に赴いて、そこの所長のウィリー・ファウラーの協力で、泡箱を用いて原子核の衝突実験( 3個のヘリウムでできる炭素の原子核の性質を調べる実験)を成功させた。これにより炭素は星のなかで無尽蔵に作られる性質があることが判った。その後も彼ら2人を含めて数名が元素の歴史に迫り、論文に結実させた。だが、こうした論文は定常モデルに有利に働いたというよりむしろ、ハッブルの観測によって導かれた星の進化に関するアイディア群がより完成度を高めた、と一般には見なされた。
《ビッグバン VS 定常宇宙》論争では、ローマカトリックは早い段階で、どちらの陣営を支持するか態度を明らかにしていた。1951年に教皇ピウス12世はバチカン宮殿で会議を開き、「ビッグバンはカトリックの公式の教義に矛盾しない」との声明を発表した(とは言っても、これは純粋に科学的なことには、あまり関係のないことであった)これらの宇宙論に関する大きな論争が起きるたびに、新聞の読者たちは熱くなった。
1953年にハッブルが亡くなり、彼が計画した仕事(宇宙のサイズと運命を推算する仕事。当時、ウィルソン山天文台でなければできない仕事)を引き継がなければならなくなったアラン・サンディジ(Allan Sandage)という弟子がいた。当時20代半ばで、ようやく学位論文を仕上げたばかりだった。彼はルメートルの説を馬鹿げたものとは見なさず、これを「Creation Event (天地創造事件)」と呼んで探究した。サンディジは、膨張宇宙説を支えているのは192030年代に集められたいかにも頼りない証拠にすぎない、ということを意識しており、結局、どの説が正しいかを決定づけるのは彼がウィルソン山の天文台で少しずつ、だが系統的に日々集めている観測データであることを知っていた。
ところで、ロシアに核兵器関連の仕事をしつつ物理学者として成長し素粒子物理に関する論文を書いていたヤコブ・ゼルドビッチがいたが、彼は西側の科学者以上にビッグバン説について真剣に考えていて、宇宙を巨大な素粒子物理実験と見なすようになっていた。彼は宇宙の元素存在比の表を読み違えて計算したことにより、《熱いビッグバン》は間違いだと考え、《冷たいビッグバン》を長らく信じた。
しかしやがて、宇宙が高温高密度の状態から進化したというアイデアを支持する観測的な証拠が挙がってきた。1965年の宇宙マイクロ波背景放射の発見以降は、ビッグバン理論が宇宙の起源と進化を説明する最も良い理論であると考える人が多数派になった。
現在の科学者による宇宙論の研究はそのほとんど全てが基本的なビッグバン理論の拡張や改良を含むものである。現在行なわれているほとんどの宇宙論の研究には、ビッグバンの文脈で銀河がどのように作られたかを理解することや、ビッグバンの時点で何が起きたかを明らかにすること、観測結果を基本的な理論と整合させることなどが含まれている。
ビッグバン宇宙論の分野では1990年代の終わりから21世紀初めにかけて、望遠鏡技術の大発展とCOBE、ハッブル宇宙望遠鏡、WMAP といった衛星から得られた膨大な量の観測データとが相まって、非常に大きな進展が見られた。これらのデータによって、宇宙論研究者はビッグバン理論のパラメータを今までにない高い精度で計算することが可能になり、これによって宇宙が加速膨張しているらしいという予想外の発見がもたらされた。
 

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ビッグバン その3
・概観
Ia型超新星を用いた宇宙膨張の測定や宇宙マイクロ波背景放射の揺らぎの観測、また銀河の相関関数の測定から、我々の宇宙の年齢は137 ± 2億年と見積もられている。「これら三つの独立した観測結果が一致しているという事実は、宇宙に含まれる物質やエネルギーの詳細な性質を記述する、いわゆるΛ-CDMモデルを支持する強い証拠である」と考えられている。
初期宇宙は考えられないほど高いエネルギー密度と、それに伴う非常に高い温度と圧力で一様・等方的に満たされていた。その後宇宙は膨張して冷却し、それに伴って相転移を引き起こした。この相転移は水蒸気が凝結したり水が凍ったりする物理過程と類似しているが、宇宙の相転移は素粒子に関連した過程である。
プランク時代の約10-35秒後、相転移によってインフレーションと呼ばれる宇宙の指数関数的膨張が引き起こされた。インフレーションが終了した後、宇宙の物質要素はクォーク・グルーオンプラズマと呼ばれる状態で存在していた(これにはクォーク、グルーオン以外のあらゆる粒子も含まれている。なお、2005年には、この宇宙初期に近い物質状態がクォーク・グルーオン液体として実験的に作られた可能性も報告された)。このプラズマ中では物質を構成する粒子は全て相対論的速度で運動している。宇宙の大きさが大きくなるにつれて、温度は下がり続けた。ある温度に達したところでバリオン数生成 (baryogenesis) と呼ばれる未知の相転移が起こり、クォークとグルーオンが結合して陽子や中性子といったバリオンが作られた。「この時に、現在観測されている物質と反物質との間の非対称性が何らかの形で生まれた」と考えられている。
さらに温度が下がると、さらなる対称性の破れをもたらす相転移が起こり、これによって、この宇宙に存在する基本的な力と素粒子とが現在のような形になった。この後、ビッグバン元素合成と呼ばれる過程によって、陽子と中性子とが結合してこの宇宙に存在する重水素とヘリウムの原子核が作られた。宇宙が冷えるにつれて、物質の相対性理論的速度での運動は次第に収まり、物質の静止質量エネルギー密度の方が放射(電磁波)のエネルギー密度よりも重力的に優勢になった。およそ30万年後には電子と原子核とが結合して原子(そのほとんどは水素原子)が作られた。これによって放射は物質と相互作用する確率が低くなり、ほぼ物質に妨げられることなく空間内を進むことができるようになった。この時期の放射の名残が宇宙マイクロ波背景放射である。
時間が経つにつれて、ほとんど一様に分布している物質の中でわずかに密度の高い部分が重力によってそばの物質を引き寄せてより高い密度に成長し、ガス雲や恒星、銀河、その他の今日見られる天文学的な構造を形作った。この過程の細かい部分は宇宙の物質の量と種類によって変わってくる。ここでは物質の種類としては、冷たいダークマター、熱いダークマター、バリオンの3種類が可能性として考えられる。現在最も精度の良い測定(WMAP による)によると、宇宙の物質の大部分を占めているのは冷たいダークマターであると見られている。それ以外の2種類の物質が占める割合は宇宙全体の物質の20%以下である。
今日の宇宙ではダークエネルギーと呼ばれる謎のエネルギーが優勢であるらしいことがわかっている。現在の宇宙の全エネルギー密度のうちおよそ70%がダークエネルギーである。宇宙にこのような構成要素が存在することは、大きな距離スケールで時空が予想よりも速く膨張しており、このために宇宙膨張が速度と距離の比例関係からずれていることが明らかになったのがきっかけとなって知られるようになった。
ダークエネルギーは最も単純な形では一般相対性理論のアインシュタイン方程式の中に宇宙定数項として現れるが、その組成は不明である。より一般的に言うと、ダークエネルギーの状態方程式の詳細や素粒子物理学の標準模型との関係について、観測と理論の両面から現在も研究が続けられている。
これら全ての観測結果は、Λ-CDMモデルと呼ばれる宇宙論モデルに凝縮されている。6個の自由パラメータを持つビッグバン理論の数学モデルである。
宇宙の始まりの時代、今までの素粒子実験で調べられたことがないほど粒子のエネルギーが高かった時期を詳しく見ていくと、謎が浮かび上がってくる。大統一理論によって予想されている最初の相転移よりも前、宇宙最初の10-33秒間については、説得力のある物理モデルは存在しない。アインシュタインの相対性理論では、宇宙は、「最初の瞬間」には密度が無限大になる重力的特異点になる。これより以前の宇宙の状態を記述するには、量子重力理論が必要になると考えられる。この時代(プランク時代)の宇宙の状態を解明することは現代の物理学の大きな未解決問題の1つである。
 

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ビッグバン その4
・理論的基盤
現在のところ、ビッグバンは次の3つの仮定に依存しているとされる。
物理法則の普遍性
宇宙原理
コペルニクスの原理
最初にビッグバンが考え出された時にはこれらのアイデアは単なる仮定と考えられていたが、今日ではこのそれぞれを検証する試みが行なわれている。物理法則の普遍性の検証からは、宇宙年齢の間にわたって微細構造定数に生じ得たずれの大きさは最大でも10-5のオーダーであることが分かっている。宇宙原理を定義している宇宙の等方性については10-5以内のレベルで成り立っていることが検証されており、一様性については最大10%のレベルで成り立っていることが分かっている。また、コペルニクスの原理についてはスニヤエフ・ゼルドビッチ効果による銀河団と CMB との相互作用を観測するという手法で検証する試みが行われており、1%の精度で検証されている。
ビッグバン理論では、任意の場所での時刻を「プランク時代からの時間」として曖昧さなく定義するためにワイルの仮定を用いる。この系では大きさは共形 (conformal) 座標と呼ばれる座標系に従って決められる。この座標系ではいわゆる共動距離と共形時間を用いることで宇宙膨張の効果を消し去る。宇宙膨張は宇宙論的スケール因子によって、時空のサイズを考慮してパラメータ化される。共動距離と共形時間はそれぞれ、宇宙論的な運動に乗って動く物体間の共動距離が常に一定となるように、また粒子的地平線、すなわちある場所から見た宇宙の観測限界が共形時間と光速によって決まるように定義される。
宇宙がこのような座標系で記述されることから、ビッグバンは物質が空っぽの宇宙を満たすように外に向かって爆発するのではないことが分かる。ビッグバンでは時空自体が膨張するのである。我々の宇宙でどのような2つの定点をとっても二点間の物理的距離が大きくなる原因はこれによって説明される。(例えば重力などによって)一体に束縛されている物体の系は時空の膨張とともに膨張はしない。これは、これらの物体を支配する物理法則が普遍的に成り立ち、計量の膨張とは無関係であることが仮定されているためである。加えて、局所的なスケールでの現在の宇宙膨張は非常に小さいため、仮に物理法則が宇宙膨張に依存していたとしても現在の技術では測定不可能である。
・観測的証拠
一般に、宇宙論においてビッグバン理論を支持する観測的な支柱が三つあると言われている。それは、銀河の赤方偏移に見られるハッブル則的な膨張と、宇宙マイクロ波背景放射の詳細な観測、それに軽元素の存在量である(元素合成を参照のこと)。これらに加えて、宇宙の大規模構造の相関関数の観測も標準的なビッグバン理論とよく一致している。
・ハッブル則に従う膨張
遠方の銀河とクエーサーの観測から、これらの天体が赤方偏移していることが分かっている。これは、これらの天体から出た光がより長い波長へとずれていることを意味する。この赤方偏移は、これらの天体のスペクトルをとって、それらの天体に含まれる原子が光と相互作用して生じる輝線や吸収線の分光パターンを実験室で測定したスペクトルと比較することで分かる。この分析から、光のドップラーシフトに対応した値の赤方偏移が測定され、これは後退速度として説明される。後退速度を天体までの距離に対してプロットすると、ハッブルの法則として知られている比例関係が現れる。
  H0D
ここで
v は銀河や遠方の天体の後退速度
D は天体までの距離
H0 はハッブル定数。WMAP による2005年現在の観測値は 71 ± 4 km/s/Mpc
遠方の天体の赤方偏移はドップラー効果だと説明されることが多いが、(現にハッブル本人はドップラー効果だと信じていたが)これは間違いである。一般相対性理論から、「天体と観測者の間の空間の膨張」による赤方偏移であることが確認できる。観測される赤方偏移は、「観測者との相対速度(ドップラー効果)」、「宇宙の膨張による赤方偏移」、「重力による赤方偏移」等が重なったものである。近くにある天体の場合は、宇宙の膨張の赤方偏移の値が低いので、他の効果の影響が強い。一番近い銀河、アンドロメダ銀河は銀河系に接近しているので、ドップラー効果による青方偏移が観測される。
観測されているハッブルの法則については2つの説明が可能である。1つは、我々は銀河が四方に飛び去る運動の中心にいるというものである。これはコペルニクスの原理の仮定の下では受け入れがたい。もう1つの説明は、宇宙は時空の唯一の性質として、全ての場所で一様に膨張しているとするものである。この種の一様な膨張というアイデアは、ハッブルによる観測と解析が行われるより以前に一般相対論の枠組みの中で数学的に考え出されたもので、フリードマン、ルメートル、ロバートソン、ウォーカーらによって独立に提案されて(フリードマン・ロバートソン・ウォーカー計量)以来、現在もなおビッグバン理論の土台となっている。
 

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ビッグバン その5
・宇宙マイクロ波背景放射
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ビッグバン理論からは、バリオン数生成の時代に放出された光子による宇宙マイクロ波背景放射 (CMB) の存在が予測されていた。初期宇宙は熱平衡の状態にあったため、プラズマが再結合するまでは放射とプラズマの温度は等しかった。原子が作られる以前には、放射はコンプトン散乱と呼ばれる過程によって一定の割合で吸収・再放射されていた。つまり、初期の宇宙は光に対して不透明だった。しかし宇宙が膨張によって冷却すると、やがては温度が3000K以下にまで下がり、電子と原子核とが結合して原子を作り、原始プラズマは電気的に中性のガスに変わった。この過程は光子の脱結合 (decoupling) として知られている。中性原子のみとなった宇宙では放射はほぼ妨げられることなく進むことができる。
初期の宇宙は熱平衡状態にあったため、この時代の放射は黒体放射スペクトルを持ち、今日まで自由に宇宙空間を飛んでいる。ただし宇宙のハッブル膨張によってその波長は赤方偏移を受けている。これによって元々の高温の黒体スペクトルはその温度が下がっている。この放射は宇宙のあらゆる場所で、あらゆる方向からやってくるのが観測できる。
1964年、アーノ・ペンジアスとロバート・W・ウィルソンは、ベル研究所にある新型のマイクロ波受信アンテナを使って一連の試験観測を行なっていた時に宇宙背景放射を発見した。この発見は一般的な CMB の予想を確実に裏付けるものだった。発見された放射は等方的で、約3Kの黒体スペクトルに一致することが明らかとなったのである。この発見によって宇宙論をめぐる意見はビッグバン仮説を支持する方へと傾いた。ペンジアスとウィルソンはこの発見によって1978年にノーベル物理学賞を受賞した。
1989年に NASA は宇宙背景放射探査衛星 (COBE) を打ち上げた。1990年に発表されたこの衛星による初期の成果は、CMB に関するビッグバン理論による予想と一致した。COBE 2.726K という初期宇宙の名残の温度を検出し、CMB が約105分の1の精度で等方的であると結論した。1990年代には CMB の非等方性が数多くの地上観測によって詳しく調査され、非等方成分の典型的な角度サイズ(天球上でのサイズ)の測定から、宇宙は幾何学的に平坦であることが明らかになった。
2003年の初めにはWMAP 探査機の観測結果が発表され、宇宙論パラメータのいくつかについてこの時点で最も精度の良い値が得られた(宇宙背景放射の観測実験を参照のこと)。この探査機のデータからいくつかのインフレーションモデルは妥当性を否定されたものの、観測結果は大筋ではインフレーション理論と整合するものだった。
 

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ビッグバン その6
・軽元素の存在比
ビッグバンモデルを用いると、この宇宙に存在するヘリウム4(4He)、ヘリウム3(3He)、重水素(2H)、リチウム7(7Li)の中性水素(1H)に対する相対的濃度を計算することができる。全ての組成はバリオン-光子比という1個のパラメータに依存している。ビッグバン理論で予想される存在比(個数比ではなく質量比)の値は、4He/1H が約0.252H/1H が約10-33He/1H が約10-47Li/1H が約10-9である。
実際に測定されている存在量は全て、バリオン-光子比という1つの値から予想される値と一致している。軽元素の相対的存在比を説明できる理論はこれ以外には知られていないため、この事実はビッグバンの強い証拠と考えられている。
若い時代の宇宙(恒星内での原子核合成で生成された核種を含まない、星形成以前の宇宙)において、ヘリウム4が重水素よりも多く存在することや重水素がヘリウム3よりも多く存在すること、さらにそれが宇宙のどこでも一定の比率であることを明確に説明できる理論は、ビッグバン理論以外にはない。
・銀河の進化と分布
銀河やクエーサーの形態と分布の詳細な観測からビッグバンの強い証拠が得られている。観測データと理論によって、最初のクエーサーや銀河はビッグバンからおよそ10億年後に生まれ、その後で銀河団や超銀河団などのより大きな構造が今に至るまで作られていることが示唆されている。恒星の集団は時間とともに状態を変化させるので、(初期の宇宙にあるものと見なされる)遠方の銀河は(新しいと見なされる)我々の近傍にある銀河とは大きく異なっているように見える。加えて、相対的に最近に生まれた銀河も、同じ距離にあってビッグバンの直後に生まれた古い銀河とは明らかに異なっている。これらの観測結果は定常宇宙モデルに対する強い反論となっている。星形成、銀河・クエーサーの分布、大規模構造の各観測結果はビッグバンモデルによる宇宙の構造形成シミュレーションの結果とよく一致しており、理論の詳細部分を補完するのに役立っている。
・特徴と問題
ビッグバンが提唱されて以来、この理論にはいくつもの問題が持ち上がってきた。これらの問題のうちのいくつかは今日では主に歴史的興味の対象であり、理論を修正したりより質の良い観測データが得られたことで解決されてきた。それ以外の問題、例えば尖ったハローの問題 (cuspy halo problem) や矮小銀河問題、冷たいダークマターといった問題については、理論を改良することで対処できるため、致命的な問題ではない、と考えられている。
ビッグバンがあったことに疑念を抱く人や、全く信じない人、ビッグバン理論支持者が「非標準的宇宙論 (non-standard cosmologies)」と呼ぶ説の支持者も、少数派ではあるが存在する。彼らはビッグバン理論の標準的な問題に対する解決策は理論のその場しのぎ的な修正や補足に過ぎないと主張している。彼らにしばしば攻撃されるのは、標準的宇宙論のダークマターやダークエネルギー、インフレーションといった部分である。「しかし、これらの特徴についての理論的説明は今なお物理学の探求の最前線にある話題であり、しかもビッグバン元素合成や宇宙背景放射、大規模構造、Ia型超新星といった独立した観測から示唆されているものである」という。これらの特徴が持つ重力的効果は観測的にも理論的にも理解されているが、素粒子物理学の標準模型にはまだうまく組み込まれていない。ビッグバン理論のいくつかの面は基礎物理学によって十分には説明されていないが、ほとんどの天文学者や物理学者はビッグバン理論と観測結果がよく合致していることによって、この理論の基本部分は全てしっかりと確立していることを受け入れている、という。
ビッグバン理論にまつわる「問題」と謎を以下に挙げる。(次回掲載)
 

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ビッグバン その7
・地平線問題
地平線問題は情報が光速より速くは伝わらないという前提から導かれる問題である。すなわち、光速に宇宙年齢を乗じて得られる距離(地平線)よりも遠く隔たっている宇宙空間の2つの領域は因果律的に関わりを持たない。観測されている宇宙背景放射 (CMB) の等方性はこの点で問題となる。なぜなら CMB の光子が放射された時代の地平線の大きさは、現在の天球上で約2度の大きさにしかならないからである。もし宇宙がプランク時代以来同じ膨張の歴史をたどってきたとすると、これらの領域が同じ温度になったメカニズムが存在しないことになる。
この見かけの矛盾はインフレーション理論で解決される。この理論では、プランク時代の10-35秒後の宇宙では一様等方的なスカラーエネルギー場が優勢であったとする。インフレーションの間、宇宙は指数関数的な膨張を起こし、因果律的につながりのある各領域が、それぞれの地平線を超えて膨張する。ハイゼンベルクの不確定性原理から、このインフレーション期には量子論的な揺らぎが存在したことが予想されている。この揺らぎが後に宇宙スケールにまで引き伸ばされることになる。これらの揺らぎが現在の宇宙に見られる全ての構造の種となる。インフレーションの後、宇宙はハッブルの法則に従って膨張し、因果律的につながりのある範囲を超えて拡大した領域が再び地平線内に入ってくる。こうして CMB に観測されている等方性が説明される。インフレーション理論は原始揺らぎがほぼスケール不変でガウス分布に従うことを予想しており、これは実際に CMB の測定によって確認されている。
・平坦性問題
平坦性問題は、ロバートソン・ウォーカー計量に伴う幾何学を考えることで導かれる観測上の問題である。一般的に、宇宙は3種類の異なる幾何学に従う可能性がある。すなわち、双曲線幾何学、ユークリッド幾何学、楕円幾何学である。宇宙の幾何学(曲率)は宇宙に含まれる全エネルギー密度(これはアインシュタイン方程式の上では応力エネルギーテンソルで表される)によって決まる。エネルギー密度が臨界密度より小さければ宇宙の幾何学は双曲線的(負の曲率)に、臨界密度より大きければ楕円的(正の曲率)に、そしてちょうど臨界密度に等しければユークリッド的(曲率 0)になる。現在の宇宙のエネルギー密度の測定結果から考えると、宇宙が生まれた直後にはエネルギー密度が1015分の1の精度で臨界密度に等しくなっていた必要がある。これより少しでもはずれた値だった場合には宇宙は急激に膨張してしまうかあっという間にビッグクランチを迎えてしまい、現在存在するような宇宙にはならないことになる。
この問題の解決策もやはりインフレーション理論によって提案されている。インフレーションの時代には時空は急激な膨張によって、それ以前に存在したどんな曲率も均されてしまい、高い精度で平坦になる。このようにしてインフレーションによって宇宙は平坦になったという説明である。
・磁気単極子
磁気単極子問題は1970年代の終わりに提起された。大統一理論によれば宇宙空間には点欠陥が生まれ、これが磁気単極子として現れる。このような磁気単極子は観測からは全く見つかっていないが、大統一理論からはこの観測結果とは全く一致しないほど大量の磁気単極子が生成されることが予想されている。この問題もインフレーションによって解決できる。インフレーションが起こると、曲率が均されて平坦になるのと同様に、これらの点欠陥も全て密度が急激に薄められて観測可能な範囲の宇宙から見当たらないほどになる。
・バリオンの非対称性
この宇宙になぜ物質が反物質よりも多く存在するのかについてはまだ分かっていない。一般には、宇宙が若く非常に高温だった時代には宇宙は統計的に平衡状態にあり、バリオンと反バリオンが同じ数だけ存在したと考えられる。しかし現在の観測からは、宇宙は非常に遠方の領域も含めてほぼ完全に物質から構成されているらしいことが分かっている。そこで、バリオン数生成と呼ばれる未知の物理過程によってこの非対称性が作られたと考えられている。バリオン数生成が起こるためには、アンドレイ・サハロフによって提唱されたサハロフの条件が満たされている必要がある。この条件とは、バリオン数が保存しないこと、C対称性とCP対称性が破れていること、宇宙が熱力学的平衡状態にないことである。ビッグバンではこれら全ての条件が満たされるが、その効果は現在のバリオンの非対称性を説明できるほど強くはない。バリオンの非対称性を説明するためには高エネルギー素粒子物理学の新たな進展が必要である。
・球状星団の年齢
1990年代の中頃、球状星団の観測結果がビッグバン理論と矛盾する可能性が指摘された。球状星団の恒星の種族の観測と一致するような恒星進化のコンピュータシミュレーションの研究から、球状星団の年齢は約150億年であるという結果が出た。これは宇宙年齢が137億年であるという見積もりと矛盾する。この問題は1990年代終わりになって、恒星風による質量放出の効果を考慮した新しいコンピュータシミュレーションによって、球状星団の年齢はもっと若いという結果が得られたことによって一般的には解決した。観測による球状星団の年齢の測定結果がどの程度正しいかについては依然として問題も残されているが、球状星団が宇宙で最も古い天体の一種であることは明らかである。
 

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ビッグバン その8(終わり)
・ダークマター
1970年代から1980年代にかけて、様々な観測(特に銀河の回転曲線の観測)から、宇宙には銀河内や銀河間に働く重力の強さを十分説明できるだけの「目に見える」(電磁波を放出・吸収・散乱する)質量が存在しないことが明らかになった。このことから、宇宙に存在する物質の90%は通常の、つまりバリオンからなる物質ではなく、ダークマターであるという考え方が出てきた。これに加えて、宇宙の質量のほとんどが通常の物質であると仮定すると、観測と強く矛盾するような帰結が得られることも分かってきた。具体的には、もしダークマターが存在しないとすると、宇宙には銀河や銀河団などの高密度の構造がこれほど大きく成長しなかったはずであり、また重水素の量が今よりはるかに多く作られたはずである。ダークマター仮説は当初は議論を呼んだが、現在では CMB の非等方性や銀河団の速度分散、大規模構造の分布などの観測や、重力レンズの研究、銀河団からのX線の測定などを通じて、標準的宇宙論の一部として広く受け入れられている。ダークマターは重力的な痕跡を通じてしか検出されておらず、ダークマターに当てはまるような粒子は実験室ではまだ見つかっていない。しかし素粒子物理学からはダークマターの候補が数多く挙がっており、これらを検出するプロジェクトがいくつか進んでいる。
・ダークエネルギー
1990年代に宇宙の質量密度の詳細な測定が行なわれると、宇宙のエネルギー密度全体に占める質量の割合は臨界密度の約30%であることが明らかになった。宇宙背景放射の観測が示すように我々の宇宙は平坦なので、残り70%のエネルギー密度が説明されないまま残されていることになる。現在、この謎はもう1つ別の謎と結び付いているように見える。それは、Ia型超新星の複数の独立した観測から、宇宙膨張が厳密なハッブルの法則に従っているのではなく、非線形な加速をしていることが示されているという点である。この加速を説明するためには、宇宙の大部分が大きな負の圧力を持つ成分からなっていることが一般相対論から要請される。このダークエネルギーがエネルギー密度の残り70%を担っていると現在考えられている。ダークエネルギーの正体はビッグバン理論の大きな謎の1つとして残されている。考えられる候補としてはスカラーの宇宙定数やクインテセンスなどがある。この正体を理解するための観測が現在続けられている。
・ヒミコの発見
2009年、大内正己特別研究員が率いる日米英の国際研究チームが発見したヒミコは、ビッグバンから約8億年後(現在の宇宙年齢の6%、現在から遡ると約129億年前)という宇宙が生まれて間もない時代に存在した巨大天体であり、この天体の存在はビッグバン理論に対して大きな問題を投げかけることになった。
ヒミコは、55千光年にも広がり、宇宙初期の時代の天体としては記録的な大きさである。ビッグバン理論では、「小さな天体が最初に作られ、それらが合体集合を繰り返して大きな天体ができる」と考えられているが、ヒミコはビッグバンから約8億年後には既に現在の平均的な銀河と同じくらいの大きさになっていたこととなり、これは理論の根幹を揺るがす事実である。
・ビッグバン理論に基づく宇宙の未来
ダークエネルギーが観測される以前は、宇宙論研究者は宇宙の未来について二通りのシナリオを考えていた。宇宙の質量密度が臨界密度より大きい場合には、宇宙は最大の大きさに達し、その後収縮し始める。それに伴って宇宙は再び高密度・高温になってゆき、宇宙が始まったときと同じ状態(ビッグクランチ)で終わる。またあるいは、宇宙の密度が臨界密度に等しいかそれより小さい場合には、膨張は減速するものの止まることはない。宇宙の密度が下がっていくにつれて星形成は起こらなくなる。宇宙の平均温度は絶対零度に次第に近づいていき、それとともに、より質量の大きなブラックホールも蒸発するようになる。これは熱死あるいは低温死 (cold death) として知られるシナリオである。さらに、陽子崩壊が起こるならば、現在の宇宙のバリオン物質の大多数を占める水素が崩壊する。こうして最終的には放射だけが残る。
現在の加速膨張の観測結果からは、今見えている宇宙は時間とともに我々の事象の地平線を超えてどんどん離れていき、我々とは関わりを持たなくなることが示唆される。最終的な結果がどうなるかは分かっていない。Λ-CDM宇宙モデルは、宇宙定数という形でダークエネルギーを含んでいる。この理論では銀河などの重力的に束縛された系だけはそのまま残され、宇宙が膨張して冷えるに従ってやはり低温死へと向かうことが示唆される。幽霊エネルギー (phantom energy) 説と呼ばれる別のダークエネルギーの説明では、ダークエネルギーの密度が時間とともに増加し、これによるビッグリップと呼ばれる永遠に加速する膨張によって銀河団や銀河自体もばらばらに壊されてしまうとしている。
・ビッグバンを超える純理論的物理学
「ビッグバンモデルは宇宙論の中で堅固に確立しているが、将来的には改良されるものと思われる。インフレーションが起きたと仮定される最も初期の宇宙についてはほとんど分かっていない。また、我々が原理的に観測できる範囲をはるかに超えたところにも宇宙の一部が存在するかもしれない。インフレーションを仮定した場合にはそうなるはずである。すなわち、宇宙の指数関数的膨張によって空間の大部分は我々が観測可能な地平線を超えて広がっていることになる。我々が超高エネルギースケールでの物理を現在より深く理解した時に何が起こるかはある程度推測することができる。その時には量子重力理論が構築されているはずである」という。
今まで提案された理論には以下のようなものがある。
カオス的インフレーション
ブレイン宇宙論モデル。ビッグバンはブレイン同士の衝突の結果起こるとするエキピロティックモデルを含む。
振動宇宙論。初期宇宙の高温高密度状態は現在と同じような宇宙が過去にビッグクランチを起こした結果であるとする。この説では宇宙は無限回のビッグバンとビッグクランチを繰り返してきたことになる。エキピロティックモデルを拡張した循環モデルはこのシナリオの現代版である。
時空の全体は有限であるとするハートル=ホーキングの境界条件を含むモデル。
これらのシナリオの中には定性的に互いに同等なものもある。これらはそれぞれまだ検証されていない仮定を含んでいる。
 

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インフレーション宇宙(宇宙のインフレーション) その1
宇宙のインフレーション(うちゅうのインフレーション、cosmic inflation)とは、初期の宇宙が指数関数的な急膨張を引き起こすことにより、ビッグバン理論のいくつかの問題を一挙に解決する初期宇宙の進化モデルである。インフレーション理論・インフレーション宇宙論などとも呼ばれる。この理論は、1981年に佐藤勝彦、次いでアラン・グースによって提唱された。インフレーションという命名は、宇宙の急膨張を物価の急上昇になぞらえたグースによるが、論文の投稿は佐藤の方が早かった。
・概要
インフレーション理論では、宇宙は誕生直後の10-36秒後から10-34秒後までの間にエネルギーの高い真空(偽の真空)から低い真空(真の真空)に相転移し、この過程で負の圧力を持つ偽の真空のエネルギー密度によって引き起こされた指数関数的な膨張(インフレーション)の時期を経たとする。
この膨張の時間発展は正の宇宙定数を持つド・ジッター宇宙と同様のものである。この急激な膨張の直接の結果として、現在我々から観測可能な宇宙全体は因果関係で結び付いた (causally-connected) 小さな領域から始まったこととなる。この微小な領域の中に存在した量子ゆらぎが宇宙サイズにまで引き伸ばされ、現在の宇宙に存在する構造が成長する種となった。このインフレーションに関与する粒子は一般にインフラトンと呼ばれる。
 
イメージ 1
上図の左端に時空の計量の劇的な膨張が描かれている(2006年のWMAPのプレスリリースより翻訳)。
・動機
インフレーションによって、1970年代に指摘されていたビッグバン宇宙論のいくつかの問題点が解決される。これらの問題の中には、観測される宇宙が極めて平坦であること(平坦性問題)、因果律的に結び付きを持たないほど大きなスケールにわたって宇宙が極めて一様であること(地平線問題)、多くの大統一理論 (GUT) のモデルで存在が予言されている空間の位相欠陥が全く観測されないこと(モノポール問題)などが含まれている。インフレーション理論の標準的モデルでは、宇宙が幾何学的に平坦であることや初期宇宙の原始密度ゆらぎがスケール不変であることを予言している。これらの予言は(WMAP などによる)宇宙マイクロ波背景放射の高精度の観測結果や(スローン・デジタル・スカイサーベイなどの)銀河サーベイ観測で得られた銀河分布のデータによって非常に良い精度で確かめられている。
インフレーション理論の最も単純なモデルは約1015GeVという大統一理論のエネルギー領域を扱うため、インフレーション理論は GUT スケールやそれに近い高エネルギー領域を扱う素粒子物理学にとっても重要である。1980年代には、インフレーションの元となる真空のエネルギーを生み出す場を大統一理論が予言する特定の場と関連付けたり、実際の宇宙の観測結果を用いて大統一理論のモデルに制限を与えようとする試みが盛んに行なわれた。これらの研究はほとんど成果を挙げることはなく、インフレーションを起こす真空のエネルギー密度を生み出すような粒子や場(インフラトン)の正体については謎のままである。インフレーション理論は主として、高温の初期宇宙の初期条件について理論が詳細に予言する部分のみが理解されており、その背後にある素粒子物理学についてはアドホックなモデル化が行なわれているに留まっている。
インフレーションの時代の後には、初期宇宙の高温の放射を生み出した再加熱 (reheating) の時代が存在したはずである。この再加熱の原因についてはほとんど分かっていないが、最近ではインフレーションの終了期にインフラトンが他の粒子に崩壊する過程が共鳴的に起きたことで再加熱が起きたとするパラメータ共振モデルなどが提唱されている。
最近の宇宙マイクロ波背景放射の観測では、様々な競合理論よりもインフレーション理論をより強く支持する結果が得られている。インフレーションモデルに残されている理論的問題点の一つは、インフレーションを引き起こす場のポテンシャルを微調整しなければならないという点である。もしインフラトンが大きな真空のエネルギーを持つとすれば、その質量は小さく(またそのコンプトン波長は大きく)なければならない。しかし高エネルギー領域の物理学では数多くのスカラー場が存在すると考えられており、超弦理論に限っても、インフラトンやインフラトン場の候補となる粒子やスカラー場は数多く存在している。一方、現実世界で、スカラー場が見つかっていないことを考慮すれば、インフラトンの候補として必ずしもスカラー場に限定する必要はないのかもしれない。例えば、ゲージ理論に出現する多重項を実効的な「インフラトン」とするモデルも近年提唱されている。
 

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インフレーション宇宙(宇宙のインフレーション) その2
・機構
インフレーション理論が最初に提唱されて以来30年以上にわたって、インフレーションのモデルは理論的な困難を解消し、宇宙論的観測の結果と適合するように発展してきた。今日でも宇宙論研究者と素粒子物理学者はインフレーションについて新たなアプローチを提案し続けている。しかしこれまでに提唱されたモデルには全て、フリードマン方程式の解として指数関数的な膨張をする時代が共通して存在する(例外として、クインテセンスによるインフレーションを考えるモデルでは膨張は多項式的膨張になる)。熱平衡状態にある宇宙について基本的な仮定を用いるだけで、ほぼ全てのモデルでインフレーションの枠組みが導かれる。実際、初期宇宙に関して起こりうる全ての宇宙論的シナリオを集めた場合、インフレーション時代を経ないシナリオはその中でごくわずかである。以下ではこれまでに提唱された最もよく知られたインフレーションモデルの歴史的発展について述べる。
・前段階のインフレーション理論
一般相対性理論の黎明期に、アルバート・アインシュタインは物質の均一な密度を持つ三次元球体の静的宇宙解を許す宇宙定数(宇宙項)を導入した。少し後に、ウィレム・ド・ジッターは、高い対称性を持つ膨張宇宙を見出した。この宇宙は正の宇宙定数(宇宙項)を持つ。アインシュタインの解は不安定であり、もし小さなゆらぎがあれば、それは最終的にド・ジッターの解に変化することが発見された。
1970年代初頭、ヤーコフ・ゼルドビッチはビッグバン宇宙論の深刻な平坦性問題および地平線問題に気が付いた。彼の研究以前の宇宙論は、純粋に哲学的な地面上で対称性が存在していることを仮定していた。ソ連では、BelinskiおよびKhalatnikovが相対性理論におけるカオス的なBKL特異点を分析を導いた。Misnerのミックスマスター宇宙は、このカオス的な振る舞いを使って宇宙論の問題を解決することを試み、限定的には成功を収めた。
1970年代後半、シドニー・コールマンはアレクサンドル・ポリャコフと同僚たちによって場の量子論における偽の真空の発展を研究するために開発されたインスタントンの技法を導入した。統計力学における準安定相(例えば、凝固点以下または蒸発点以上の水の状態)と同様に、量子場が遷移(相転移)を起こすためには、新しい真空、新しい相の十分に大きい泡を核とする必要がある。コールマンは、真空の崩壊(真空の相転移)についての最もありそうな崩壊経路を発見し、単位体積あたりの寿命の逆数を計算した。彼は最終的に重力効果が重要であろうことに気付いたが、その効果を計算して宇宙論の結果へ適用するこはしなかった。
ソ連ではAlexei Starobinskyが、一般相対性理論のエネルギー運動量テンソルに寄与する量子補正から導かれる指数関数的膨張宇宙のモデルに初めて到達した。彼は、初期宇宙においては一般相対性理論への量子補正が重要で、それはアインシュタイン=ヒルベルト作用への曲率二乗補正を一般的に導くはずだと考えた。この曲率二乗項の存在の下でのアインシュタイン方程式の解は、曲率が大きい時、有効宇宙定数を導くことができる。このため彼は、初期宇宙はインフレーション期に指数関数的に急激な膨張を起こすド・ジッター相へ一次相転移すると提唱した。これは宇宙論の問題を解決し、宇宙背景放射への補正に関する特定の予測を導くものであった。この補正は少ししてからすぐに詳細に計算された。
1978年、ゼルドビッチはモノポール問題について考察した。これは地平線問題の非曖昧な定量的バージョンであり、当時の素粒子物理の流行の一分野であった。ゼルドビッチのアイデアは、モノポール問題を解決するためのいくつかの思索的な試みを導いた。1980年、アメリカで研究していたアラン・グースは初期宇宙における偽の真空崩壊はこの問題を解決しうることに気が付き、スカラー場によって駆動されるインフレーションの提案へとつながった。
・古いインフレーション
素粒子の大統一理論における一次相転移に基づいたインフレーションモデルは、佐藤とグースによって独立に提唱されたが、スタロビンスキーAlexei Starobinskyは重力への量子補正によって宇宙の初期特異点を指数関数的に膨張するド・ジッター相に置き換えうることを議論し、真空偏極効果に基づくインフレーションモデルを提唱した。198010月、Demosthenes Kazanasは指数関数的膨張は粒子的地平面を除去することができるであろうこと、そしておそらく地平線問題を解決することを示唆した。1981年、佐藤勝彦は指数関数的膨張はドメインウォールを除去しうることを示唆した。さらに、Martin B. Einhornおよび佐藤は共著で、グースに先駆けて指数関数的宇宙膨張の論文を発表し、大統一理論に磁気単極子が多量に現れる問題を解決しうることを示した。彼らはそのようなモデルは宇宙定数のファインチューニングを必要とすることだけでなく、非常に粒度の細かい宇宙 (granular universe)、例えば、泡の壁の衝突から生じる大きな密度の変動を導きやすいことを結論付けた。
大統一理論の一次相転移に基づいた佐藤とグースのモデルでは、誕生直後の宇宙は偽の真空と呼ばれる状態にあったとされる。偽の真空の状態にある宇宙は厳密にド・ジッター宇宙の膨張則に従う。このモデルでは、インフレーションの終わった領域が真の真空の「泡」の核生成として宇宙の中に作られる一方、残りの領域ではインフレーションが続く。このような泡同士が衝突すると、泡の壁が持つ莫大なエネルギーが粒子に変換され、これがビッグバン初期宇宙に存在する高温の放射や物質粒子となる。この過程は再加熱と呼ばれる。インフレーションが続いている巨大な背景領域では我々の宇宙と同様の新しい宇宙が絶えず生成され続ける。ここで、一般に重力相互作用のエネルギーは負であるため、正のエネルギーを持つ宇宙が新しく生成されてもエネルギー保存則は破られない。このようにして熱力学第一法則(エネルギー保存則)熱力学第二法則(時間の矢の問題)の両方がうまく回避される。グースはこのことからインフレーション宇宙を「究極の無料ランチ」であると形容している。
このモデルでは、初期宇宙が冷却するにつれて、宇宙は高エネルギー密度の偽の真空(これは宇宙定数に酷似している)の内に捉えられたとする。最初期の宇宙が冷却されるにつれ、宇宙は準安定状態(過冷却されている)の内に補足され、量子トンネルを経由して泡形成の過程を通ってのみ崩壊しうる。真の真空の泡は自発的に偽の真空の海の中で形成し、すぐさま光速で膨張を始める。グースは、このモデルは適正に再加熱しないため問題があることを認識した。泡が核生成したとき、それらはどんな放射も生成しない。放射は泡の壁の間の衝突内でのみ生成される。しかし、インフレーションが初期条件問題を解決するのに十分長く存続するなら、泡の間の衝突は非常に稀になる。どんな因果的な宇宙の区画内でも、ただ1つの泡が核生成する。
しかし、この一次相転移モデルは以下の点でうまくいかない。すなわち、標準ビッグバン理論の問題を解決できるほど十分にインフレーションが進行することを保証するためには、真の真空の核生成率は非常に小さくなければならないが、核生成率が小さいと泡同士の衝突が起こらず、再加熱過程が働かないことになる。なぜなら泡の間にある(インフレーションが依然として進行している)空間は非常に速く膨張するため、泡同士の距離は泡自身の成長速度よりも速く広がってしまうからである。よって、偽の真空の崩壊によって放出されるエネルギーは全て泡の壁の運動エネルギーとして使われる一方、高温のビッグバンに必要なエネルギーが泡の衝突によって全く供給されず、いつまで経っても火の玉宇宙の時代に移行しないことになる。この問題は「華麗な退場の問題 (graceful exit problem)」と呼ばれ、一次相転移モデルは現在では古いインフレーション (old inflation) と呼ばれる。
 

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インフレーション宇宙(宇宙のインフレーション) その3
・ゆっくり転がるインフレーション
佐藤とグースの論文が発表された翌1982年、アンドレイ・リンデ、およびアンドレアス・アルブレヒトとポール・スタインハートのグループはそれぞれ独立に、新しいインフレーション (new inflation) またはゆっくり転がるインフレーション (slow-roll inflation) と呼ばれるモデルを提唱した。これによって泡の衝突問題は解決されることになる。古いインフレーションでは、インフレーションの元となるスカラー場があるポテンシャルの極小値に停留した状態からトンネル効果でポテンシャル障壁を越えて転がり落ちる過程としてインフレーションがモデル化されるが、新しいインフレーションモデルでは、古いインフレーションに比べてポテンシャルの形が極小を持たないほぼ平坦な形状になっており、このポテンシャルの上をスカラー場がゆっくりと転がり落ちるとされている。このモデルでは宇宙の膨張は近似的にド・ジッター宇宙になるだけで、ハッブル・パラメータは実際には減少する、すなわち膨張は減速する。古いインフレーションのド・ジッター宇宙では偽の真空の中に生まれるゆらぎのスペクトルは厳密にスケール不変になるが、新しいインフレーションでは近似的にスケール不変になるだけである。このことはすなわち、インフレーション中のポテンシャルに関する情報を、宇宙マイクロ波背景放射のゆらぎのスペクトル指数を測定することで原理的に引き出せることを意味している。ゆっくり転がるインフレーションでは、インフラトンのポテンシャルがほぼ平坦な領域の終端まで達するとインフレーションは終わり、ここからポテンシャルの傾きは(エネルギー密度に対して)増加して、転がり落ちる速度も増加する。これがこのシナリオでの再加熱過程で、ポテンシャルのエネルギー密度の値に応じてインフラトンとの相互作用によって火の玉宇宙の輻射や粒子が生成される。
このモデルでは、偽の真空状態のトンネルを抜け出る代わりに、インフレーションはスカラー場によってポテンシャルエネルギーの丘を転がり落ちて発生する。宇宙の膨張に比べて場が非常にゆっくり転がるとき(平坦なとき)、インフレーションが起こる。しかしながら、丘がより急になるとインフレーションが終わり再加熱が起こる。最終的に、新しいインフレーションは完全に対称的な宇宙は作り出さないが、インフラトン内に僅かな量子ゆらぎが生成されることが示された。これらの僅かなゆらぎは、後の宇宙において生成されるすべての構造にとっての根源的な種を形成する。これらのゆらぎは初めにソ連のViatcheslav MukhanovおよびG. V. ChibisovによってStarobinskyの類似モデルを解析する中で計算された。インフレーションの文脈では、1982年にケンブリッジ大学における最初期の宇宙についての三週間のNuffieldワークショップで、それらはMukhanovおよびChibisovの仕事によって独立に解かれた。そのゆらぎは個別に解析を行った四つのグループによってワークショップの期間中に計算された。スティーヴン・ホーキング、Starobinsky、グースおよびSo-Young Pi、およびJames M. BardeenPaul SteinhardtおよびMichael Turneのグループである。
新しいインフレーションは一般に永遠に続く。スカラー場は古典的にはポテンシャルを転がり落ちるだけだが、量子ゆらぎによって時にはポテンシャルの高い位置に再び戻される場合もある。これらの領域はインフラトンのポテンシャルエネルギーが低い領域に比べて非常に速く膨張する。したがって、いくつかの領域ではインフレーションが終わっても、インフレーションが続いている領域は指数関数的に成長するため、インフレーションが起きている領域の方が常に宇宙の大部分を占めることになる。このような、ある領域でインフレーションが終わっても量子力学的ゆらぎのために宇宙の大部分でインフレーションが持続するという定常状態は永久インフレーション (eternal inflation) またはカオス的インフレーション (chaotic inflation) と呼ばれ、アンドレイ・リンデによって最初に提唱された。永久インフレーションが過去においても永遠かどうか、すなわち宇宙は無限の過去から続いているのかどうかについては疑わしいとする意見が多いが、異論もあ。そのため、このモデルが宇宙の初期条件の問題を解決できるかどうかは未解決である。無限の過去から続く永久インフレーションというモデルは、主流派宇宙論における定常宇宙論であると見ることもできる。なぜならこのモデルは完全宇宙原理を満たすからである。
新しいインフレーションの拡張として、ハイブリッド・インフレーション (hybrid inflation) と呼ばれる別のインフレーションモデルもある。このモデルでは新たなスカラー場を導入し、ある1つのスカラー場が通常のゆっくり転がるインフレーションに対応し、別の場がインフレーションの終了を引き起こす。すなわち、インフレーションが十分長く続くと、第二の場が非常に低いエネルギー状態に落ち込む確率が増え、これによってインフレーションが終わるというものである
 
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