出典:フリー百科事典「ウィキペディア」より引用
光速 その3(終わり)
・量子力学
光速は、エバネッセント波が関与する現象、たとえばトンネル効果などにおいても超えることができる。エバネッセント波の位相速度と群速度は光速を超えうることが、実験によって示されている。しかしながら前面速度は光速を超えられないとされているため、この場合にも情報が光速を超えて伝播することはない。
量子力学では、ある種の量子的効果が光速を超えて伝播することがある(実際に、空間的隔たりのある物体同士の相互作用は長らく量子力学の問題であると見なされてきた)。たとえば、2つの粒子の量子状態が量子もつれの状態にあり、一方の粒子の状態が他方の粒子の状態を固定するものとする(ここでは、一方のスピンが +1⁄2 でなければならず、他方が -1⁄2 でなければならないとする)。観測されるまでは、2つの粒子は(+1⁄2, −1⁄2)および(−1⁄2, +1⁄2)という2つの量子状態の重ね合わせ状態にある。2つの粒子が離れ、一方の粒子が観測されて量子状態が決定されたとすると、自動的に他方の粒子の量子状態も決定される。もし、ある種の量子力学の解釈のように、量子状態についての情報が1つの粒子について局所的であるとするなら、次のように結論づけなければならない。すなわち、最初の観測がなされると、2つ目の粒子は即座に、その量子状態を占めるのである。しかしながら、最初の粒子が観測されたときにどちらの量子状態にあるかを制御することは不可能なので、この方法でも情報は伝播できない。物理法則は、情報がもっと賢い方法で伝播することをも妨げており、これは量子複製不可能定理や通信不可能定理へとつながることになった。
・接近速度
2つの物体が互いに向かい合う方向に運動しており、それぞれ、ある慣性系における速度が0.8cであったとする。このとき、その系において、それらは1.6cの速度で接近していることになる。これを接近速度とよぶ。接近速度はある系におけるどんな物体の速度も表していないことに注意が必要である。
・固有速度
ある宇宙船が、地球から(地球の静止系で)1光年離れた惑星まで光速で移動するとする。これに要する時間は、宇宙船内の時計でみると1年よりも短くなることが可能である(地球上の時計でみれば、必ず1年以上かかる)。このとき、地球の系でみた移動距離を、宇宙船の時計でみた経過時間で割った値のことを、固有速度という。固有速度はあるひとつの慣性系で観測される速度を表しているわけではないので、この値には上限がない。しかしもちろん、同時に地球を出発した光信号はどんな場合にも宇宙船より速く惑星に到達する。
・光速よりも速く伝播するように見えるだけのもの
いわゆる超光速運動とよばれるものが、電波銀河やクエーサーのジェットなど、ある種の天体において観測される。しかし、これらのジェットは光速よりも速く運動しているわけではない。この見かけ上の超光速運動は、物体が光速に近い速度で運動しており、その方向と視線とのなす角度が小さいときに起こる投影効果である。超光速で運動して見えるジェットを持つクエーサーは超光速クエーサーと呼ばれており、3C 279や3C 179はその一例である。
・媒質中の光速よりも速く伝播するもの
逆説的のようだが、電磁放射で衝撃波をつくることが可能である。荷電粒子が絶縁された媒質中を通過するとき、粒子は媒質の局所的電磁場を乱す。媒質の原子中の電子は、通過する荷電粒子の場によって動かされ、偏極が起きる。粒子が通過したあとに媒質中の電子が再び平衡状態に戻るとき、光子が放射される(伝導体においては、光子を放射することなく平衡状態に戻る)。通常の場合、この光子は破壊的に干渉しあい、放射は検出されない。しかし場の乱れが光子よりも速いとき、すなわち荷電粒子が媒質中の光速よりも速いとき、光子は創造的に干渉しあい、観測される放射強度は増幅される。この放射は音波におけるソニックブームのようなもので、チェレンコフ放射とよばれる。
・理論上の超光速粒子
タキオンは、ゾンマーフェルトによって提唱され、ジェラルド・ファインバーグによって命名された仮想の超光速粒子である。
スーパーブラディオンはルイス・ゴンザレス・メストレによって提唱された仮想の超光速粒子である。タキオンと異なり正の実数の質量とエネルギーを持つ。
・光速変動理論
宇宙の初期に関する理論であるインフレーション理論に対抗する光速変動理論(VSL) などのアイデアが存在している。光子が非常に高いエネルギーであるときに、光速が速くなる、とする考えだが、場当たり的な仮定が多く、方程式も複雑であるため、正しく宇宙の法則をとらえた理論であるとは考えられていない。