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Channel: アンディマンのコスモロジー (宇宙論)
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天体宇宙物理学への扉を開く

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出典:フリー百科事典「ウィキペディア」より引用
インフレーション宇宙(宇宙のインフレーション) その2
・機構
インフレーション理論が最初に提唱されて以来30年以上にわたって、インフレーションのモデルは理論的な困難を解消し、宇宙論的観測の結果と適合するように発展してきた。今日でも宇宙論研究者と素粒子物理学者はインフレーションについて新たなアプローチを提案し続けている。しかしこれまでに提唱されたモデルには全て、フリードマン方程式の解として指数関数的な膨張をする時代が共通して存在する(例外として、クインテセンスによるインフレーションを考えるモデルでは膨張は多項式的膨張になる)。熱平衡状態にある宇宙について基本的な仮定を用いるだけで、ほぼ全てのモデルでインフレーションの枠組みが導かれる。実際、初期宇宙に関して起こりうる全ての宇宙論的シナリオを集めた場合、インフレーション時代を経ないシナリオはその中でごくわずかである。以下ではこれまでに提唱された最もよく知られたインフレーションモデルの歴史的発展について述べる。
・前段階のインフレーション理論
一般相対性理論の黎明期に、アルバート・アインシュタインは物質の均一な密度を持つ三次元球体の静的宇宙解を許す宇宙定数(宇宙項)を導入した。少し後に、ウィレム・ド・ジッターは、高い対称性を持つ膨張宇宙を見出した。この宇宙は正の宇宙定数(宇宙項)を持つ。アインシュタインの解は不安定であり、もし小さなゆらぎがあれば、それは最終的にド・ジッターの解に変化することが発見された。
1970年代初頭、ヤーコフ・ゼルドビッチはビッグバン宇宙論の深刻な平坦性問題および地平線問題に気が付いた。彼の研究以前の宇宙論は、純粋に哲学的な地面上で対称性が存在していることを仮定していた。ソ連では、BelinskiおよびKhalatnikovが相対性理論におけるカオス的なBKL特異点を分析を導いた。Misnerのミックスマスター宇宙は、このカオス的な振る舞いを使って宇宙論の問題を解決することを試み、限定的には成功を収めた。
1970年代後半、シドニー・コールマンはアレクサンドル・ポリャコフと同僚たちによって場の量子論における偽の真空の発展を研究するために開発されたインスタントンの技法を導入した。統計力学における準安定相(例えば、凝固点以下または蒸発点以上の水の状態)と同様に、量子場が遷移(相転移)を起こすためには、新しい真空、新しい相の十分に大きい泡を核とする必要がある。コールマンは、真空の崩壊(真空の相転移)についての最もありそうな崩壊経路を発見し、単位体積あたりの寿命の逆数を計算した。彼は最終的に重力効果が重要であろうことに気付いたが、その効果を計算して宇宙論の結果へ適用するこはしなかった。
ソ連ではAlexei Starobinskyが、一般相対性理論のエネルギー運動量テンソルに寄与する量子補正から導かれる指数関数的膨張宇宙のモデルに初めて到達した。彼は、初期宇宙においては一般相対性理論への量子補正が重要で、それはアインシュタイン=ヒルベルト作用への曲率二乗補正を一般的に導くはずだと考えた。この曲率二乗項の存在の下でのアインシュタイン方程式の解は、曲率が大きい時、有効宇宙定数を導くことができる。このため彼は、初期宇宙はインフレーション期に指数関数的に急激な膨張を起こすド・ジッター相へ一次相転移すると提唱した。これは宇宙論の問題を解決し、宇宙背景放射への補正に関する特定の予測を導くものであった。この補正は少ししてからすぐに詳細に計算された。
1978年、ゼルドビッチはモノポール問題について考察した。これは地平線問題の非曖昧な定量的バージョンであり、当時の素粒子物理の流行の一分野であった。ゼルドビッチのアイデアは、モノポール問題を解決するためのいくつかの思索的な試みを導いた。1980年、アメリカで研究していたアラン・グースは初期宇宙における偽の真空崩壊はこの問題を解決しうることに気が付き、スカラー場によって駆動されるインフレーションの提案へとつながった。
・古いインフレーション
素粒子の大統一理論における一次相転移に基づいたインフレーションモデルは、佐藤とグースによって独立に提唱されたが、スタロビンスキーAlexei Starobinskyは重力への量子補正によって宇宙の初期特異点を指数関数的に膨張するド・ジッター相に置き換えうることを議論し、真空偏極効果に基づくインフレーションモデルを提唱した。198010月、Demosthenes Kazanasは指数関数的膨張は粒子的地平面を除去することができるであろうこと、そしておそらく地平線問題を解決することを示唆した。1981年、佐藤勝彦は指数関数的膨張はドメインウォールを除去しうることを示唆した。さらに、Martin B. Einhornおよび佐藤は共著で、グースに先駆けて指数関数的宇宙膨張の論文を発表し、大統一理論に磁気単極子が多量に現れる問題を解決しうることを示した。彼らはそのようなモデルは宇宙定数のファインチューニングを必要とすることだけでなく、非常に粒度の細かい宇宙 (granular universe)、例えば、泡の壁の衝突から生じる大きな密度の変動を導きやすいことを結論付けた。
大統一理論の一次相転移に基づいた佐藤とグースのモデルでは、誕生直後の宇宙は偽の真空と呼ばれる状態にあったとされる。偽の真空の状態にある宇宙は厳密にド・ジッター宇宙の膨張則に従う。このモデルでは、インフレーションの終わった領域が真の真空の「泡」の核生成として宇宙の中に作られる一方、残りの領域ではインフレーションが続く。このような泡同士が衝突すると、泡の壁が持つ莫大なエネルギーが粒子に変換され、これがビッグバン初期宇宙に存在する高温の放射や物質粒子となる。この過程は再加熱と呼ばれる。インフレーションが続いている巨大な背景領域では我々の宇宙と同様の新しい宇宙が絶えず生成され続ける。ここで、一般に重力相互作用のエネルギーは負であるため、正のエネルギーを持つ宇宙が新しく生成されてもエネルギー保存則は破られない。このようにして熱力学第一法則(エネルギー保存則)熱力学第二法則(時間の矢の問題)の両方がうまく回避される。グースはこのことからインフレーション宇宙を「究極の無料ランチ」であると形容している。
このモデルでは、初期宇宙が冷却するにつれて、宇宙は高エネルギー密度の偽の真空(これは宇宙定数に酷似している)の内に捉えられたとする。最初期の宇宙が冷却されるにつれ、宇宙は準安定状態(過冷却されている)の内に補足され、量子トンネルを経由して泡形成の過程を通ってのみ崩壊しうる。真の真空の泡は自発的に偽の真空の海の中で形成し、すぐさま光速で膨張を始める。グースは、このモデルは適正に再加熱しないため問題があることを認識した。泡が核生成したとき、それらはどんな放射も生成しない。放射は泡の壁の間の衝突内でのみ生成される。しかし、インフレーションが初期条件問題を解決するのに十分長く存続するなら、泡の間の衝突は非常に稀になる。どんな因果的な宇宙の区画内でも、ただ1つの泡が核生成する。
しかし、この一次相転移モデルは以下の点でうまくいかない。すなわち、標準ビッグバン理論の問題を解決できるほど十分にインフレーションが進行することを保証するためには、真の真空の核生成率は非常に小さくなければならないが、核生成率が小さいと泡同士の衝突が起こらず、再加熱過程が働かないことになる。なぜなら泡の間にある(インフレーションが依然として進行している)空間は非常に速く膨張するため、泡同士の距離は泡自身の成長速度よりも速く広がってしまうからである。よって、偽の真空の崩壊によって放出されるエネルギーは全て泡の壁の運動エネルギーとして使われる一方、高温のビッグバンに必要なエネルギーが泡の衝突によって全く供給されず、いつまで経っても火の玉宇宙の時代に移行しないことになる。この問題は「華麗な退場の問題 (graceful exit problem)」と呼ばれ、一次相転移モデルは現在では古いインフレーション (old inflation) と呼ばれる。
 

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