出典:フリー百科事典「ウィキペディア」より引用
多元宇宙論 その3(終わり)
-サイクリック宇宙論
いくつかの理論では、宇宙は無限に連続する自立的な循環を行う(ビッグバン–ビッグクランチの永遠の循環など)。
-M理論
上述の多元宇宙とは少し異なるものが、M理論 (Membrane Theory) として知られる弦理論の多次元拡張理論において構想されている。M理論において、われわれの宇宙およびその他の宇宙は11次元および26次元空間内における(次元数は観測者のカイラリティに依存する)pブレーン同士の衝突によって創られる。そして、各宇宙はDブレーンの形態を取る。各宇宙にある物体はそれらの宇宙のDブレーンに本質的に閉じ込められているが、おそらくDブレーンに制限されていない力である重力を通して他の宇宙と相互作用しうる。これは"量子宇宙"における宇宙とは異なっているが、これらの概念はどちらもともに機能する。
-人間原理
他の宇宙の存在という概念は、なぜわれわれの宇宙はわれわれが経験しているように意識を持つ生命が存在するのか、なぜ物理定数がそのように微調整されているように見えるのかを説明するために提案されてきた。もし多数(場合によっては無限大)の物理法則または基本定数に対応する宇宙が存在するならば、これらのいくつかは星や惑星、そして生命が存在するのに適した物理法則を持つであろう。弱い人間原理はそのとき、われわれが意識を持つのは、意識を持つ存在のために微調整された宇宙にわれわれが存在しているためであるという結論を導く。このように、宇宙の多くには生命が存在する確率は極端に小さいが、生命を保持する宇宙が稀であることは、われわれような意識的存在を説明する理由として、インテリジェント・デザイン説を暗示しない。
・批判
-非科学的主張
これらの理論の多くは、実験による検証可能性を欠いているという批判がある。そして、反証不可能である強固な物理的証拠を欠いており、確証または反証するための科学的調査の方法論の外にある。多くの多元宇宙理論の主張が実験的証拠や検証可能性を欠いている理由は、他の宇宙が異なる時空の枠組みにあると仮定されるためである。そのため原理的にそれらは観測することができないはずである。
-間接的証拠
現代科学の論理的な基礎は仮説演繹法の論理である。これは、理論による未観測の実在を提案することを認めている。もし観測可能な結果を説明するのに役立つのであれば、(将来の観測の)予測または(過去に起こった観測の)レトロダクションに基づいた理論を用いることができる。
-オッカムの剃刀
われわれの宇宙を説明するだけのために未観測の宇宙が無限に存在するという仮説を立てることは、オッカムの剃刀に反しているように見えるという批判がある。
テグマークの回答:
懐疑主義者は、これらの観測されていない世界をそれぞれ特定する必要があるあらゆる情報について心配する。しかし、全体の集合はその要素の一つよりも実際は非常に単純である。この原理はアルゴリズム情報理論の文脈の観念を用いてより形式的に語ることができる。ある数に含まれるアルゴリズム情報量は、大まかに言って、その数を出力として生成する最も短いコンピュータプログラムの長さである。例えば、すべての整数の集合を考える。このとき、すべての集合とただ一つの数ではどちらがより単純だろうか?素朴にも、あなたは単一の数がより単純だと考えるだろう。しかし、全集合は非常に短いコンピュータプログラムによって生成することができる反面、単一の数は非常に長いプログラムを必要とする。それゆえ、全集合は実質より単純である。同様に、アインシュタイン方程式のすべての解の集合は特定の解よりもより単純である。前者は少数の方程式で記述されるが、後者はある超曲面上の膨大な初期データの詳細情報を必要とする。この教えるところは、集合の中の特定の要素に注意を絞ると複雑性は増すため、すべての要素の全体性の中に本来備わっている対称性および単純性が失われるということである。この意味で、より高次のレベルの多元宇宙はより単純である。われわれの宇宙からレベル I 多元宇宙に進むと、特定の初期条件を必要としなくなる。レベルII の段階に上がると特定の物理定数を必要としなくなり、レベル IV 多元宇宙ではあらゆる特定の値を必要としなくなる。
4つの多元宇宙レベルすべての一般的な特徴は、最も単純でほぼ間違いなく最も洗練された理論は当初から平行宇宙を含むということである。これらの宇宙の存在を否定するには、実験的に支持されていない過程およびアドホックな仮定によって理論を複雑化する必要がある。例えば、有限空間、波動関数の崩壊および存在論的非対称性 (ontological asymmetry) などの仮定が必要となる。それゆえ、われわれの判断は、より無駄が多く洗練されていないとわれわれが考える多くの世界または多くの言葉へと到達する。おそらく、われわれの宇宙の超自然的な性質に徐々に慣れていき、その奇妙さがその魅力の一部分であることに気付くだろう。
・哲学および論理学における多元宇宙仮説
-様相実在論
可能世界は確率、仮説上の言説、それに同様のものを説明する一つの方法である。デイヴィド・ルイスなどいくらかの哲学者は、すべての可能世界は存在する、そして実際の世界と同様に現実である(様相実在論として知られる立場)と信じている。
-トランスワールド・アイデンティティ
あらゆる与えられた宇宙の無限の同一コピーを仮定する多元宇宙の枠組には、異なる可能世界に同一の物体が存在できるという観念の形而上学的な議論が生じる。デイヴィド・ルイスの対応者理論によると、異なる可能世界に存在するその物体はそれぞれ同一というよりも類似していると見なされるべきである。
-虚構実在論
虚構実在論では、創作が存在するということは、創作上のキャラクターも同様に存在する考える。ここでは哲学的な議論はともかく、人々や月曜日や数や惑星が存在するのと同じような意味で、創作上の実在が存在する。