出典:フリー百科事典「ウィキペディア」より引用
写像 その1
写像(mapping, map)とは、2つの集合が与えられたときに、一方の集合の各元に対し、他方の集合のただひとつの元からなる集合を指定して結びつける対応のことである。函数、変換、作用素、射などが写像の同義語として用いられることもある。
ブルバキに見られるように、写像は集合とともに現代数学の基礎となる道具の1つである。圏と関手を縦横に駆使する最先端の数学を除けば、現代数学のほとんどが、集合と写像の言葉で書かれているといっても良いほどである。なお、分野によっては慣例として、「射(map)」という用語が、ある特定の写像を意味することもある(例:位相幾何学においては連続関数、線形代数においては線形写像など)。
現代的な立場では、「写像」と「函数」は論理的におなじ概念を表すものと理解されているが、歴史的には「函数」の語は解析学に出自を持つものであり、一部には必ずしも写像でないものも函数の名の下におなじ範疇に扱われる。日本語においてはその語感もあって(解析学の興味の対象となる)「数を値域に持つ写像」をして特に函数と呼ぶという傾向は現代においても根強い。函数、二項関係、対応の各項も参照のことである。
・素朴な定義
集合 A の各元に対してそれぞれ集合 B の元をただひとつずつ指定するような規則 f が与えられているとき、fを始域(しいき、source)A から終域(target)B への写像であるといい
などと表す。また f は A で(あるいは A の上で)定義されているといい、あるいはまた f はB に(あるいは B の中に)値を持つという。始域 A を sour(f)、終域 B を tar(f) のように記すこともある。また、A の元 a が f によって B の元 b に移されるとき、b をa における f の像あるいは値(value)と呼び、b を f(a) で表す。また、a が f によって b に写されることを、棒つき矢印を用いて f: a ↦ b などとも表す。変数x を用いて x ↦f(x) のように表すとき、f はA を亘る(または走る)変数 x の函数であるという。
もう少し一般に、必ずしも全体集合 A に一致するとは限らない何らかの部分集合 A′ に属する各元a に対して、集合 B に a における f の値となる元 f(a) が与えられているとき、つまり f: (A ⊇)A′ → B が写像となるような集合 A′ が存在するとき、f はA を始域、B を終域とする部分写像(partial mapping)であるといい、これを(記号の濫用だが)やはり
と記す。このとき、A′ を部分写像 f の定義域(domain of definition)と呼んで、D(f), dom(f) などで表す。部分写像 f の定義域 D(f) が始域 A に一致するとき、これを特に全域写像(total mapping)と呼ぶ。