出典:フリー百科事典「ウィキペディア」より引用
万有引力 その6(終わり)
・万有引力の法則、その後
イギリス側の自然哲学者はニュートンの説を支持をする者が多かったが、その後、数十年以上の長い年数の議論を経て徐々に大陸側でも支持者が増え、やがては物理学においては自然界に存在する基本的な力だと見なされるようになっていった。
後の時代で発見された電磁気力では、引力と斥力がある、とされているのに対して、重力(万有引力)では引力しか存在せず、斥力は存在しない。
現在では、重力と呼ぶ場合には、質量に加速度を与える力全般を意味する。重力には、地球自転の遠心力のような慣性の力や、一般相対論で予言される慣性系の引きずりによる力も含まれるが、それらは万有引力ではない。
重力(または重力相互作用)の正体は、アルベルト・アインシュタインの一般相対性理論では、質量を持つ物体が引き起こす時空の歪みである、と説明された。これに対して、'万有引力'という用語は、ニュートンの定式化した重力の意味で用いられる傾向にある。
質量を持つ物体が自然発生的に引力を獲得する事は広く知られているが、そのような現象が起きる理由は一切解明されていない。
・一般相対性理論と重力
アインシュタインは、光速度に近い場合の力学として、1905年に特殊相対性理論を発表した後、加速度運動を含めた相対性理論の構築に取り掛かかった。そして重力場を時空の幾何学として取り扱う方法を模索し、1916年に一般相対性理論を発表した。
アインシュタインの重力場の方程式(アインシュタイン方程式)では、万有引力はもはやニュートン力学的な力ではなく、重力場という時空の歪みである、と説明されるようになった。また、重力の作用は、瞬時ではなく光速度で伝えられる、とされるようになった。
ニュートンの万有引力の法則では、質量を持った物体間の力であるとされるので、質量を持たない物質には万有引力は存在しないこととなる。一般相対性理論を採用すると、重力が時空の歪みであるとすると、光の軌道もまた重力によって曲がる事を意味する。これはアーサー・エディントンによる観測で実証されることになった。
一般相対性理論は、非常に強い重力が働く場を記述する。太陽系であれば、ニュートン力学に若干の補正項が加わる程度なので、ニュートン力学はその意味で近似的に正しいと考えて差し障りない。例えば前述の光の軌道の歪みについても、太陽の近傍においてようやく観測され得るものである
アインシュタイン方程式は、通常の物理の方程式と同様、時間反転に対して対称なので、宇宙全体に適用すると、重力の影響で収縮宇宙の解と共に、膨張宇宙の解が得られる、という。
一般相対性理論の発表当時は、ハッブルによる膨張宇宙の発見前で、アインシュタインは「宇宙は静的で安定している」と考えていた。自身の方程式が、動的な宇宙を予言したため、アインシュタインは万有引力に拮抗する万有斥力があると想定し、重力場の方程式に宇宙項を加えることで、静的な解が存在できるように重力場の方程式を修正した。
後に彼は宇宙項を「生涯最大の過ち」と悔いた。
「だが、宇宙項のアイデアは現在の宇宙論では、宇宙のインフレーションや宇宙の加速膨張を説明するものとして復活していると言える」と言う。
・素粒子物理学と重力
素粒子物理学では、自然界に存在する四つの基本的な相互作用のひとつとして、素粒子間に働く重力相互作用とみなされ、重力子(グラヴィトン)という素粒子により媒介するとみなされるが、素粒子としての重力子は現在のところ未発見である。素粒子間の重力相互作用は無視できるほど小さいが、素粒子と地球との間の重力を考慮する必要があることもある。
(※「ひとつの原子に存在する電子の数と陽子の数は同じで、種類によって数が決まっている。により、やはり電荷を帯びた電子が運動する事により電磁波が生まれ、それが引き付けあう力(反発力より若干大きい為)が発生し引力として認識される、とする説もある。)
・量子重力
近年では、量子力学と一般相対性理論の結合、重力の量子化が試みられ、量子重力と呼ばれている。格子重力などさまざまな試みがあるが、実現は困難である。量子重力を宇宙論に適用する試みは、量子宇宙論と呼ばれる。