出典:フリー百科事典「ウィキペディア」より引用
宇宙論 基礎理論 その1
宇宙論(cosmology)は、宇宙の構造や性質、歴史などについて研究する学問である。日本語ではコスモロジーとも呼ばれ、以下のような異なる学問分野で研究対象となっている。
哲学・形而上学
宗教学
倫理学
天文学・宇宙物理学
ここでは特に天文学・宇宙物理学の1分野としての宇宙論 (physical cosmology) を扱う。
・概論
天文学・宇宙物理学における宇宙論は、我々の宇宙自身の大スケールでの構造の研究を行なうもので、宇宙自体の生成と進化についての根本的な疑問に関連している。人類の歴史の大部分の時代には、宇宙論は形而上学の1分野とされていた。自然科学としての宇宙論は、天体は地上の物体に働いているのと同じ物理法則に従っていることを示唆するコペルニクスの原理と、それらの天体の運動の理解を初めて可能にしたニュートン力学に端を発している。これらは現在では天体力学と呼ばれている。現代の宇宙論は20世紀初めにアルベルト・アインシュタインによる一般相対性理論の発展と、非常に遠い距離にある天体の観測技術の進歩によって始まった。
20世紀の宇宙論の発展によって、宇宙の起源について仮説を立てることが可能になり、研究者は宇宙論の指導的理論としてビッグバンを考え出した。ビッグバンは現在、ほとんどの宇宙論研究者によって自らの理論や観測の基礎として受け入れられている。(研究者の一部は現在でも定常宇宙論やプラズマ宇宙論といった非主流的な宇宙論を支持しているものの、多数の宇宙論研究者は一般に、観測結果を説明するモデルとしてはビッグバンが最も良いという見解で一致している。)宇宙論は大まかに言って宇宙に存在する最も大きな天体(銀河、銀河団、超銀河団)を扱い、また宇宙の最も初期に形成された独特の天体(クエーサー)や、ほぼ一様だった最初期の宇宙自身を研究対象とする。
近代的な宇宙論研究は観測と理論の両輪によって発展した。1915年、アルベルト・アインシュタインは一般相対性理論を構築した。この頃の物理学者は宇宙は始まりも終わりもない完全に静的なものであるという見解を持っていた。アインシュタインは物質の存在する宇宙が静的になるように、自分が導いたアインシュタイン方程式に宇宙定数を加えた。しかしこのいわゆるアインシュタイン宇宙モデルは不安定なモデルである。この宇宙モデルは最終的には膨張もしくは収縮に至る。一般相対論の宇宙論的な解はアレクサンドル・フリードマンによって発見された。彼の方程式はフリードマン・ロバートソン・ウォーカー計量に基づく膨張(収縮)宇宙を記述している。
1910年代にヴェスト・スライファーとやや遅れてカール・ウィルヘルム・ヴィルツは渦巻星雲の赤方偏移はそれらの天体が地球から遠ざかっていることを示すドップラーシフトであると解釈した。しかし天体までの距離を決定するのは非常に困難だった。すなわち、天体の角直径を測ることができたとしても、その実際の大きさや光度を知ることはできなかった。そのため彼らは、それらの天体が実際には我々の天の川銀河の外にある銀河であることに気づかず、自分達の観測結果の宇宙論的な意味についても考えることはなかった。1927年にはベルギーのカトリック教会の司祭であるジョルジュ・ルメートルがフリードマン・ルメートル・ロバートソン・ウォーカーの式を独立に導き、渦巻星雲が遠ざかっているという観測に基づいて、宇宙は「原始的原子」の「爆発」から始まったとする説を提唱した。これは後にビッグバンと呼ばれるようになった。1929年にエドウィン・ハッブルはルメートルの理論に対する観測的裏付けを与えた。ハッブルは渦巻星雲が銀河であることを証明し、星雲に含まれるセファイド変光星を観測することでこれらの天体までの距離を測定した。彼は銀河の赤方偏移とその光度の間の関係を発見した。彼はこの結果を、銀河が全ての方向に向かってその距離に比例する速度(地球に対する相対速度)で後退していると解釈した。この事実はハッブルの法則として知られている。ただしこの距離と後退速度の関係は正確には比較的近距離の銀河についてのみ確かめられたものだった。観測した銀河の距離が最初の約10倍にまで達したところでハッブルはこの世を去った。
宇宙原理の仮定の下では、ハッブルの法則は宇宙が膨張していることを示すことになる。このアイデアからは2つの異なる可能性が考えられる。1つはルメートルが発案し、ジョージ・ガモフによって支持・発展されたビッグバン理論である。もう1つの可能性はフレッド・ホイルの定常宇宙モデルである。定常宇宙論では銀河が互いに遠ざかるにつれて新しい物質が生み出される。このモデルでは宇宙はどの時刻においてもほぼ同じ姿となる。
長年にわたって、この両方のモデルに対する支持者の数はほぼ同数に分けられていた。しかしその後、宇宙は高温高密度の状態から進化してきたという説を支持する観測的証拠が見つかり始めた。1965年の宇宙マイクロ波背景放射の発見以来、ビッグバン理論が宇宙の起源と進化を説明する最も良い理論と見なされるようになった。1960年代終わりよりも前には、多くの宇宙論研究者は、フリードマンの宇宙モデルの初期状態に現れる密度無限大の特異点は数学的な理想化の結果出てくるもので、実際の宇宙は高温高密度状態の前には収縮しており、その後再び膨張するのだと考えていた。このようなモデルをリチャード・トールマンの振動宇宙論と呼ぶ。1960年代にスティーヴン・ホーキングとロジャー・ペンローズが、振動宇宙論は実際にはうまくいかず、特異点はアインシュタインの重力理論の本質的な性質であることを示した。これによって宇宙論研究者の大部分は、宇宙が有限時間の過去から始まったというビッグバンを受け入れるようになった。