出典:フリー百科事典「ウィキペディア」より引用
量子論 その2(終わり)
・量子力学の解釈問題
-量子力学と観測
量子力学では対象を状態の重ね合わせとして記述し、観測によって1つの状態がある確率で実現する。この枠組みは、それ以前までに育まれていた客観的実在を想定する決定論的記述を見直す契機になった。このため、量子力学の解釈問題が重要な課題となった。
ニールス・ボーアらの提示したコペンハーゲン解釈では、観測が行われると、状態を記述する波動関数は1つの状態に収縮しているとする。ここで、何時どのようにその状態が実現したのかについては説明を与えない。これに対し、アインシュタインらは、量子力学では記述されていないが実際にその状態を実現させた変数が存在するはずだ、と主張した(局所的な隠れた変数理論)。また、確定時期を特定することの困難を指摘する思考実験として、有名な「シュレーディンガーの猫」の例が示された。
しかしながら、局所的な隠れた変数理論は、量子力学とは異なる結論を出すことがベルの不等式によって立証され、実験検証(アスペの実験)によって棄却された。量子力学と同じ結論を出す、非局所的な隠れた変数理論は存在する。ただし、この理論は、クラスター分解性を持たず文脈依存性があることが知られている。
-量子力学と意識
コペンハーゲン解釈はどのようにして観測によって波動関数が1つの状態に物理的に収縮するのかは説明しない。隠れた変数理論が数学的に成り立たないことがフォン・ノイマンによって証明された(しかし、後に、その証明に使われた仮定の1つが誤りであることが、デヴィッド・ボームによって指摘されている。)。そこで、ノイマンは、収縮は観測という人間の行為と同時に起こる、として、量子力学の枠組みで説明できない意識を導入し、意識と相互作用する際に収束がおきるという主張をした。ウィグナーは人間の意識の特別な意義を重要視する姿勢を示した。他に、ペンローズも意識や心と量子力学を関連させて論じている。しかし、観測の過程において、何時、どのようにして収縮が起きたかについては、それを論じる理論もなければ、それを示す証拠もなく、今日でも完全な合意は形成されていない。収縮が起きる瞬間を明確に特定できない以上、人間が認知した瞬間に起きることだけを前提として観測による状態の変化に意識が介在するという考え方に踏み込む必要性は全くないと言える。
また、このような解釈の導き出す困難をウィグナーは、ウィグナーの友人のパラドックスによって示している。これは、シュレーディンガーの猫の変形であり、毒ガス発生機をランプに置き換え、さらに、猫の代わりにウィグナーの友人を箱に入れる。猫の場合には、箱の外の人間が観測しない間は猫はマクロな状態の重ね合わせと考えねばならなかったが、猫でなく人間である場合には、箱の外の人間が観測する時点で観測が行われたとすべきか、箱の中の友人が既に観測を行っているとすべきか、決められない。ウィグナーの友人のパラドックスは、フォン・ノイマンの理論が観測という基本的な定義においてさえ不完全であることを示している。
波束の収束を、観測されるミクロな対象とマクロな観測装置の両方を含めて、物理的に説明しようとする試みも進められている。しかし、量子力学の成立以来続けられているこの試みは未だ成功していない。
-量子力学と論理学
古典力学ではものの状態は客観的に定まっていることが想定されている。従って例えば、在る、か、無い、かの、二値論理に従う。量子力学の枠組みにおいてはものの状態は客観的に定まっているものではなく、観測して初めて定まる。従ってものの状態は、在る、無い、どちらとも決まっていない(まだ観測していない)、の3つの状態に区分できる。この、状態を三値で記述する論理(三値論理)を採用することによって、ハンス・ライヘンバッハは量子力学の枠組みの論理的基礎付けを行った。
また、観測により定まる命題に関する「量子論理」がフォン・ノイマンらによって提唱されている。これは古典論理と同じ二値論理であるが、分配律が成り立たないなどの点で違いがある。
・量子コンピュータ
アインシュタイン=ポドルスキー=ローゼンのパラドックスはEPR相関として認知されるようになり、ここで生じる離れた場所どうしの状態の絡み合いを量子もつれと呼ぶ。EPR相関は量子もつれを利用して離れた場所へ状態が送られる現象として理解でき、これを量子テレポーテーションと呼ぶ。
計算機の中の電子の状態は本来量子力学的に記述されるとすると、0 または 1 の2値(1ビット)ではなく、0 と 1 が重ねあわされた途中の値を持つ場合がある。この量子論的な状態を1量子ビット(qubit) と呼ぶ。複数のqubitに対してユニタリー変換を活用して演算を行うことにより、古典計算機では実現し得なかった並列処理が可能になる。
現在情報通信分野で使われているRSA暗号などの暗号システムは、大きな桁数の素因数分解が事実上不可能である事を前提として成立しているが、量子コンピュータが実現した場合この前提が崩れる事が1994年にShorによって証明されている。また、関連する数学の分野では因数分解がNP完全問題かどうかが論点となっており、もし因数分解がNP完全問題である事が証明されれば、すべてのNP完全問題が量子コンピュータによって解かれることになる。
これ以降、予定していた「宇宙論」の記事は、「量子論」(量子力学)をはじめ
量子色力学
量子電磁力学
素粒子物理学
などであり、かなり高度な専門知識を必要とすることから取り敢えず今回で終了させていただきます。このような専門知識を必要な読者は是非とも専門書を読んで頂きたい。
更に宇宙論の真髄として記載予定だった次の項目も、省略します。
基本相互作用(四つの力) 階層性問題 暗黒物質(ダークマター)
ドップラー効果 ニュートリノ振動 カルツァ=クライン理論
万物の理論 宇宙の晴れ上がり ループ量子重力理論 超重力理論 量子化 弦理論 宇宙ひも インフレーション 原子核合成(ビッグバン原子核合成)
GWB · ニュートリノ背景放射 赤方偏移 FLRW計量 シュヴァルツシルトの解 シュヴァルツシルト半径 銀河の形成と進化 大規模構造 銀河フィラメント スローン・デジタル・スカイサーベイ2dFSDSS COBE WMAP 星間物質 ビリアル定理 質量 銀河の回転曲線問題 弾丸銀河団 重力レンズ 星間ガス 陽電子 ニュートラリーノ ダークエネルギー 熱い暗黒物質 冷たい暗黒物質(コールドダークマター)アキシオン(アクシオン)ミラーマター 白色矮星 中性子星 パルサー 褐色矮星 銀河ハロー
これまでこのブログをご覧頂き、誠にありがとうございました。
ここに感謝の意を込めて、終了させて頂きます。