特異点
特異点(singularity)は、ある基準 (regulation) の下、その基準が適用できない (singularな) 点である。したがって、特異点は基準があって初めて認識され、「 - に於ける特異点」「 - に関する特異点」という呼ばれ方をする。特異点という言葉は、数学と物理学の両方で用いられる。
・例複素解析における正則関数の正則性 (regularity) に関する特異点とは、複素関数で微分不可能な点をさす。具体的には、可除特異点 (removable singularity)、極 (pole)、真性特異点 (essential singularity)の3種の孤立点がある。有理関数 1/x に於ける特異点は、x = 0 であり、これは 1 位の極である。
局所的な変換が一対一を保たない点。円座標平面 (r,θ) に於ける特異点は、r = 0 である。
宇宙物理学では重力に関する特異点が考えられ、重力の特異点 (gravitationalsingularity) という。ブラックホール内には、時空に於ける特異点が存在する。(特異点定理参照)
重力の特異点(gravitationalsingularity)は、概略的には「重力場が無限大となるような場所」のことである。
重力場の量には曲率や物質の密度の量について含んでいる。時空の特異点で重要なのは曲率特異点と円錐特異点である。また、特異点が事象の地平面に含まれているかどうかで分類することが出来る。
一般相対性理論の解または他の重力理論(超重力と呼ばれることもある)はしばしば計量が無限大に発散するような点を結果として与えることがある。しかし、それらの多くの点は実は
完全に正則である。さらに言えば、その無限はその点に対して不適切な座標系を用いた結果にすぎな
い。よってその点が特異点であるかどうか確認する必要がある。例として、回転していないブラックホールを表すシュヴァルツシルトの解を挙げる。ブラックホールから十分に離れた系の座標系で、事象の地平線での計量は無限大となってしまう。しかしながら、事象の地平線上の時空は正則である。正則性は他の座標系(クルスカル座標系 (Kruskal-Szekerescoordinates) ではその点の計量が滑らかであることから分かる。一方で、ブラックホールの中心は、同じように計量は無限大となる、解は特異性が存在することを示している。
回転していないブラックホールの特異点は一点に発生する。それは点の特異点と呼ばれる。回転しているブラックホールのカー解では、特異点はリング状に発生する。
特異点定理またはペンローズ・ホーキングの特異点定理(Penrose–Hawkingsingularity theorems) は、重力は重力の特異点(gravitationalsingularity)を必要とするかどうか、という問いへの、一般相対性理論による結論のまとめである。
これらの定理は、物質は妥当なエネルギー状況 (energy condition) を満たしているため、この問いに肯定的に回答している。これは、妥当な物質をともなう一般相対性理論の厳密
解は、一般相対性理論が崩壊する特異点を含んでいる、ということを示している。
1960年代、時空のもつ大域的構造の研究に取り組んだホーキングとペンローズによって証明された特異点定理には、いくつかのヴァージョンがある。
簡単に説明すると、「光的捕捉面 (trapped null surface) が存在しエネルギー密度が負ではない場合、有限で延長不可能な測地線が存在する」というステートメントである。後半は時空多様体における「特異点」の数学的な定義である。ほとんど一般的な状況で成立するので、一般相対性理論のもとでは特異点の存在は避けられない、と理解してよい。ただし、特異点定理は、特異点の存在について述べるだけであり、特異点の形状や位置を特定するものではない。
物理法則の視点からは、特異点の存在は、因果律を破壊する原因になるので避けたいものである。ブラックホールなどの特異点は、事象の地平面で覆われることで問題にならないが、事象の地平面で覆われない「裸の特異点」が出現すれば物理的に厄介である。ペンローズはこの立場から、宇宙検閲官仮説(cosmic censorship conjecture) を提唱した。自然界には裸の特異点は存在しないだろう、という予想である。しかし、この仮説の真偽については、明らかではなく、特殊な状況の数値シミュレーションでは裸の特異点が出現する、という報告もある。
相対性理論の示す特異点はあくまで古典論の範囲においてであり、量子力学的効果が無視できなくなる領域では相対性理論は破綻すると考えられている。したがって、量子効果